無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

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Archives of the Empire volume Ⅰ:ウォーハンマーRPG4版

先行販売されておりました『Archives of the Empire volume Ⅰ(帝国公文書集 第一巻)』PDFに、先日訂正が入りました。皆様もうご覧になりましたでしょうか。購入する方の何割かはこれが目当てなのだろうと思われる箇所、すなわち新キャリアと新装備品に関する部分に、今回のエラッタを適用するかしないかで大きな違いが出ます。したがいまして、1月18日以前に購入された方におかれましては再ダウンロードする事を強くお勧めする次第にございます。 

さて、『Archives of the Empire volume Ⅰ』は、エンパイア領内で暮らす異種族についての、ウォーハンマーFRP第4版における最初の解説本です。 

2版の『ウォーハンマー・コンパニオン』と同様の仕掛けが冒頭にあります。『ウォーハンマー・コンパニオン』の冒頭には、“この書物は、無名の村人アズルゥア・トビアス=ソルの死後、彼の家の書斎から発見された手記をまとめたものである。村から出たことがあるかも疑わしい人物だが、どういうわけか世界各地の伝承、神話、噂話を大量に書き留めていた。内容の真偽判別は読者諸君に任せる”という注意書きが掲げられていました。 

『Archives of the Empire volume Ⅰ』の方はと申しますと、えーと、まず書かれた場所からお話致しましょう。アルトドルフの北に位置するフレデルハイム村のほど近く、シャリア教団の運営する療養所がございます。そう、『ドラッケンフェルズ』にも登場した・・・、デトレフ・ジールックの戯曲ではなくて、キム・ニューマンが書いた小説の方、にも登場するフレデルハイムの大収容所です。そこで書かれたものであるということが最初に示されるわけです。 

誰が書いたものかと申しますと、そこの入院患者のイサベラ・ホルスヴィッヒ=シュリスタイン様。アルトドルフの宮廷に出入りしている高貴な皆様であれば、お名前に心当たりのある方々もいらっしゃることでしょう。基本ルールブック275ページを開いてください、そして探してみましょう。現在のエンパイア皇帝家の家名はさて何でしたか・・・。つまるところ、自分を皇帝カール・フランツⅠ世の妹であると僭称して療養施設に送られた人物が書き記した手記の内容である、そのような体裁で始まるのであります。 

ウォーハンマー・コンパニオン』『Archives of the Empire volume Ⅰ』2つの書籍で示されている冒頭の手記は、追加ルールブックの書き手は信用できない語り手であるからして、内容をゲーム内にどの程度反映するかはGMの判断に任せますよ、という仕掛けでもあるわけです。 

さあ前置きはここまで、内容を見てみましょう。 

最初の章は、種族の紹介ではなくエンパイアの国土についての内容から始まります。各選帝侯領の正式名称、統治者の称号、議会や助言団の有無など政治体制、州都、選帝侯領に属する領地、特に有名な自由都市、主要輸出品、が箇条書きで示されます。加えて、国土、地勢、住民達の気風、注目に値する土地といったものの解説があり、各州について1ページから2ページの範囲で簡潔に述べられています。 

数値的なデータはこの章には無し、輸出額や各地域の具体的な人口などは示されておりません。それでも、あまり今までの資料では描かれてこなかった切り口、例えば古代史から現代に続く文化的な影響など、が示されており、注目に値する章です。 

もう一つ読むべき理由といたしましてはやはり、第2版からの違いでございましょう。大きな違いを幾つか挙げてみましょう。 

ミドンハイムはミドンランドの州都ではありません。名前は似通っていますが、それぞれが選帝侯を戴く別々の選帝侯領となっています。

ノードランドは独自の選帝侯を擁しておりません。ミドンハイム選帝侯の領地となっております。

エマニュエル・フェン・リーベウィッツ伯爵夫人の地位はナルン選帝侯であるというのも重要な違いです。ナルン市がウィッセンランド州に属しているのではなく、ナルン選帝侯領にウィッセンランドが付属していることになります。

そして何より、4版ではズーデンランド州が存在します。 

特に大きな箇所だけでも上のごとく、だいぶ様子が変わっていました。とはいえ『Archives of the Empire volume Ⅰ』の記述は帝国歴2512年時点の内容であるため、「内なる敵」キャンペーン以降は状況が変化するとの注意書きが示されておりました。その後のエンパイアの状況についてはシナリオ集の第5部『Empire Ruins(エンパイア荒廃す)』を参照してください、とそのように書いてあります。 

2章から各種族の解説記事が始まります。2と3章がハーフリング社会の解説で、4・5章はそれぞれエンパイア領内に居を移したドワーフ、そして山岳王国に暮らすドワーフについて章を分けて語っています。最終章は、ローレローンの森に暮らすウッド・エルフの解説となります。歴史、政治体制、軍事、社会制度、領土、彼らを脅かす外界からの脅威、この順番で語る構成はいずれも共通しております。よって、それぞれの文化について比較するのに適した体裁になっています。

さすがに1冊の書籍で3種族を解説するわけですから、内容はどうしても全体的な概論に留まります。歴史についての記述も、建国に関わる大事件一つか二つに限って挙げられていました。 

ウッド・エルフであれば髭戦争を区切りとして記されており、山岳王国のドワーフであれば復讐戦争以降いかにして国を再興したかに重点を置いて語っています。

ハーフリングはどうかといえば、彼らにとって歴史上最大の事件、ルートヴィッヒ帝によるムートの独立承認について焦点が当てられております。

帝国領内に暮らすドワーフの歴史の記述はもう少し細やかになるのですが、それでも、バルサーニ族とドワーフが出会った先史時代、シグマーによるエンパイア建国期、肥満帝ルートヴィッヒと守銭帝ボリスら暗君の統治が続いた暗黒時代、敬虔帝マグヌスによる帝国再興から現代まで、といった枠組みで語られます。

これらの記述から、各種族の歴史が対になることがより明らかになるよう意図的な構成としていることが判ります。 

では、各章を子細に見ていくことといたしましょう。

2章はハーフリングの氏族の紹介で、ライクランドで見かける12の大氏族について、彼らの歴史とビジネス範囲、構成員が主に就いている職業が解説されています。加えて、氏族のデータに基づいたNPCも掲載されています。 

そうです、各氏族には追加データが設定されているのです。ハーフリングの氏族にはそれぞれ得意とする事業分野があり、基本ルールブックとは異なる組み合わせの異能と技能でキャラクターを創造することが出来るのです。 

ソーンコブル氏族であれば、アルトドルフで廷臣に就いているハーフリングの貴族というキャラクターが作れるのです。基本ルールブックでは作れなかった組み合わせでございましょう? 

このほかにも、優れた射手として知られる戦士の氏族アッシュフィールド、放浪の旅への情熱に突き動かされるブランブルダウン氏族、商人として活動するヘイフット氏族、職人で構成されるホリフット氏族はドワーフの商人でさえ感心するほどの情熱(もちろんドワーフが公に認めることはないが)を持って仕事に打ち込み、強欲さで知られるヘイフット=ホリフット氏族は先に挙げたヘイフットとホリフット両氏族の本家だと主張している、などなど。 

もちろんパイ焼き職人として有名なラムスター氏族も紹介されています。それに拠りますと“ラムスター氏族のほとんどがパイを焼きあるいは販売することで生計を立てているが、それ以外の職業に就いてパイ焼き帝国を支える者ももちろんいる。熱々のパイを配達する御者や給仕する使用人、レシピの秘密を保管する守衛などの仕事を担う者もいる。彼らは驚くほど多様な分野で働いており、鼠取りや墓荒らしといった材料を調達する仕事に従事する者もいる。”など、ウォーハンマーらしい記述が散見されるコーナーです。 

ブラックジョークだけでなく、まっとうな解説部分も良くできています。お人好しで臆病、素朴でおおらかな性格で知られるハーフリングが、盗賊としても悪名高いのは何故か、彼らが悪の道に走るのはどのような例があるか、それらの問題についてもすんなりと理解できる論理的な記述になっていました。 

ハーフリングに関する記述が次の章も続き、ムート自治領の紹介が始まります。ハーフリングがオールド・ワールドにやってきた頃の時代についての話題が少々、ムート自治領の成立について語り、その次ページでハーフリングの年表が1ページ。基本ルールブックのライクランドや『Middenheim: City of the White Wolf』に掲載されているミドンハイムの年表よりもぐっと短いですが、ハーフリングらしい記述が詰まっています。 

先に挙げたラムスター氏族がエンパイア全土で一番有名な氏族であることからもお分かりのとおり、ハーフリングを象徴する食べ物はパイです。そんなわけで、年表の中でもパイ推しでして、例えば・・・。 

帝国歴420年、クッケンマイスター氏族のハンセルストルフ、薄パンのレシピを改良中に、サクサクした歯ごたえの菓子パン生地を作り出す。これをシチューの蓋として用いる。彼の妻モストワーシー、この生地をシチューの容器として用いることを思いつく。ハンセルストルフ、シチューを生地で包み込むことを思いつく。パイの誕生。
帝国歴421年、パイ戦争始まる。
帝国歴701年、タルティトング・バーデンブラウス、蓋なしのパイを作り、これをタルトと名付ける。同年、第二次パイ戦争始まる。
帝国歴1360年、バターミルク・キャンディヴルスト、柔らかな生地に果物とカスタードで作る「北方風」菓子パンの着想を携えて、混沌の荒れ野から帰還する。 

・・・何やってんの、この人たち(呆気)。 

ムート領の政治体制と軍事力、そして法制度の解説では、記述は短く簡潔ながらもエンパイアの他の土地とは全く異なっていることが、それも驚くほど異なっていることが判る内容となっています。 

さらに、ムートを防衛する野辺巡視員に関する記述には少なからず驚かされました。

確かに過去の版にも、野辺巡視員の活動に関しては多少の記述はありました。野辺巡視員の活躍がなければムートは平和を保てなかっただろう、とか、ハーフリングの中でもとりわけ勇敢であるとか、2版の頃はまあ大体そういった具合でした。 

4版ではこれまでの内容に加えて、「オールド・ワールドで最精鋭の戦闘集団の一つ」とまで持ち上げられています。ムートの地形を知悉しており、地の利を最大限に活かしたゲリラ戦術に長け、狙撃や破壊工作を行う特殊部隊として活動する、という。2版の頃の記述からは想像がつかないエリート集団だったのですね。まあびっくり。 

名所の紹介と旅行上の注意も掲げられています。と申しますのも、ハーフリングはエキゾチックな風習やイベント、合戦場の伝説をでっち上げて旅人を“担ぐ”ことがあるのでご注意くださいということなのです。ハーフリングが旅人に仕掛ける冗談の例もあり。紹介される名所の中には、北国キスレヴから煙草の産地ギプフェルに帰ってきたダグベルト爺さんの話とか、ザウアーアップフェルのパイ週間祭りとか、過去の版でも取り上げられた場所が掲載されておりますので、お持ちであれば読み比べてみるのも良いでしょう。

4章は、エンパイア領内に暮らすドワーフの概説。さほど長い章ではありません。 

社会制度について申し上げますと、帝国領内でのドワーフ社会では、氏族長老と長老会が集団の意志決定に大きな役割を果たしていることが判ります。 

当然のことながら領土に関する記述はありませんが、ドワーフがエンパイア領内に所有している不動産の例が幾つか示されています。 

エンパイア領内に暮らすドワーフの章を締めくくるのは、数人のNPCの紹介。基本ルールブックでは想定していない、“ドワーフの魔狩人”が登場しています。 

5章はドワーフの山岳王国、カラク=アズガラズの紹介記事となります。 

統治者ソリンガル・ザラドリンソン王とその顧問団についての記事では、廷臣の数人がNPCとしてデータが掲載されています。宮廷の構成員からも、ドワーフの実用本位な文化が見て取れます。 

ラク=アズガラズの案内記事は、アクセス方法から始まり、外界と取引を行う拠点、宿屋、醸造所といった地表の施設が始めに設けられており、後半は地表近くから地下深くまで、山を掘りぬいて作った地底の階層を大まかに分けて、それぞれの階層の役割についての説明となります。 

ラク=アズガラズの支配が及ぶ周辺地域の説明もあります。当然冒険のシナリオフックになりそうな場所が挙げられており、どうやらクレル塚もこの近くにあるんですね。 

さて、確かに4・5章は『Archives of the Empire Volume Ⅰ』の中でも短い章でしたが、注意深く読むと今まで出版された資料で明らかにされていなかった内容が、コンパクトにまとめられていることが判ります。 

例えば、エンパイアと山岳王国それぞれのドワーフが持つ価値観の違い。

山岳王国におけるドワーフ氏族は、代々の家業を子孫に継がせる職能集団である。
一方、エンパイアで暮らすドワーフは、子は親と異なる技能を学び血族の職能範囲を広げることが生き延びるために必要だと考えている。
ドワーフ王国の評議会は国王の母(母の死後は王妃が継承する)が統率する助言団であり政策の決定権を持たない。
これに対し、エンパイアに暮らすドワーフの長老会は実権を持っており、氏族の代表が集まってエンパイアにおけるドワーフ社会の方針を決める自治組織である。
山岳王国のドワーフたちは、エンパイア領内で暮らすドワーフを真の仲間とは考えていない。人間の社会に染まりドワーフの美徳を失った者たちと見なしている。
一方で、エンパイア領内で暮らすドワーフに言わせると、山岳王国にとどまっている連中は伝統に固執する了見の狭い奴らということになる。 

まとめますと、このような感じでしょうか。 

6章、ローレローンの森。 

今までほとんど公式のガイドが出ることのなかった、ウッド・エルフの王国についての解説記事が掲載されています。 

ローレローン女王の曾祖母はウルサーンの初代不死鳥王アナリオンの孫。ローレローンの王位は混沌の襲来以前の伝統に則り、後継ぎとなる女子がいなかった場合に限り男子に継承される、のだそうです。エンパイアで暮らす限りにおいてウッド・エルフに会うことはまずないでしょうし、エルフの王族に謁見する機会はなおさら有り得ないでしょうが、一応覚えておきましょう。 

ウッド・エルフの社会構造についての記事では、宮廷と評議会そして議員たちといった構成の、政治制度に関しての言及があります。 

そして、ドワーフとの髭戦争(ドワーフに言わせれば復讐戦争)以前、以降で分かれているエルフの世代とその社会的地位についてコラムがあり、それを反映したルール的なデータも提示されています。 

ローレローンの国土を紹介する記事によると、ローレローンの森はそれぞれが君主を戴く四つの区画(Ward)に分かれています。それぞれの首都と統治者、政体、領域内の人口構成が載っております。これらは今までのサプリメントにない新情報です。領土内にある重要な遺跡や自然物など、大まかな位置の判る地図もあります。 

ウッド・エルフについての記事はここまで。これらはローレローンのエルフに関する内容であって、影の森やアセル・ロゥレンのウッド・エルフはまた異なる文化を持っていると推測いたしますが、『Archives of the Empire volume Ⅰ』ではローレローンのエルフに関する紹介のみとなります。 

いよいよ冒頭で述べました、購入する方の何割かはこれが目当てなのだろうと思われる箇所、すなわち新キャリアと新装備品についての付録(Appendix)まで辿り着きました。 

今回新たに登場するキャリアは、ウッド・エルフの忍馳(Ghost Strider)、ハーフリングの野辺巡視員(Fieldwarden)、ドワーフの山岳偵察兵(Karak Ranger)、ハーフリングの穴熊騎兵(Badger Rider)。 

今回挙げられている新キャリアはいずれも、冒険で広範に活躍できる職業となっております。 

ウッド・エルフの忍馳は、優れた戦士であるだけでなく野外生存術にも長けており、さらに弓矢を自ら作る習慣があるので、補給を絶たれても長期の潜入作戦を継続できます。

ハーフリングの野辺巡視員は、行商人や鋳掛屋として村を巡回警備しつつゲリラ戦の訓練も行っており、街区と野外いずれにおいても対応できる奇襲戦のプロとなっています。

ドワーフの山岳偵察兵は、偵察任務だけが仕事ではありません。王国の領内を巡回し、損壊した街道や橋、地下通路を補修する工兵でもあり、工学と建築の知識も身に着けているのです。

ハーフリングの徳目を体現しムートを遍歴する穴熊騎兵。その起源は謎に包まれており、実在しているのか怪しいとまで言われていますが、ちゃんと作成ルールが載っています。アナタのPCは穴熊騎兵になれるのです。 

続きまして紹介いたしますのは、新兵器の数々。切れ味抜群の“お祖母ちゃんの大包丁”、必殺の剣戟さえも跳ね返すムートのフライパン。みんなのあこがれスレイヤーの大斧、ウッド・エルフの扱う軽くて丈夫で切れ味抜群の刀剣類などなど。

飛び道具がご入用ですか?ではドワーフ製の射撃武器はいかがでしょう、いずれも厳密な設計に基づいて組み立てられており、黒色火薬兵器もクロスボウも、エンパイアの兵士が使う武器よりもずっと信頼性の高い品となっております。信頼できる武器がお嫌いでしたら、危険性の高い燃焼炸裂弾や、可燃性の弾丸を撃ち出すドレイクファイア・ピストルもございます。それに、ドレイクファイア弾は通常の黒色火薬銃でも使用できますよ、暴発するかもしれませんけど

しかしながら、飛び道具といえば、何といってもエルフに分がございますね。悪意のある森の精霊を封じ込めた投げ槍や、一度に多人数と戦うために作られた矢まであるのですから。 

ルール上、相対的に人間のPCに有利な所が無くなってきた感じですか?
まあ、公式ルール上は人間だけが司祭系のキャリアに就くことが出来るわけですし、これで帳消しといった所でしょう。 

ノームの司祭ですって?ノームなんてものは実在しませんよ、ブレトニアの騎士道物語やアルトドルフの三文小説にしか登場しない、架空の存在ですよ。ハッハッハ!