無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

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Up in Arms:ウォーハンマーRPG4版

ウォーハンマーRPG第4版における追加データ集『Up in Arms(武器を執れ!)』の予約がキュービクル7エンターテイメントのサイトで始まっております。

題名から皆様ご高察の通り、武器の追加データが多数掲載されております。2版時代の『オールド・ワールドの武器庫』に相当する資料集と考えて頂いて相違なきものと存じます。

武器のデータ以外の内容も充実しておりまして、追加キャリアも多数掲載。手前はこれまでの追加資料から新規キャリアは3~4個程度であろうと推測しておりました。ところが何と15もの新キャリアが追加されているのです。さらに、戦闘における各種ルールも追加。

それだけではございません、これまで公式の設定がほとんど展開されていなかったティリア都市国家が紹介されています。

これほどの内容とは予想だにしておりませんでした、嬉しい驚きです。早速内容を見て参りましょう。

最初の章は『Up in Arms』の概要説明、1ページの短い章です。書籍の前半部が戦士のクラスに就いたキャラクターに関する内容であり、後半が追加ルール各種となるという説明でございます。

第2章は帝国州軍についての設定。制服や所持品そして州軍色といった軍装に関するあれこれ、平時の生活と戦時の活動、これらの話題で合計数ページ。

そしていよいよ新キャリアの紹介が始まります。弓兵、大剣歩兵、斧槍兵、ハンドガンナー、さらに砲兵も。

ウォーハンマーRPG第4版ではこれまで兵科が何であれ「兵士」のキャリアは共通した成長ルールが用いられていました。そのためルールブックの記載に従うと、新兵のキャラクターは射撃技術を伸ばす事が出来なかったのです。

しかし『Up in Arms』があれば、アナタも射撃に特化した兵士のキャラクターを作ることができます。ドワーフのハンドガンナーやエルフの弓兵にだってなれます。

各兵科における名高い部隊の紹介記事も載っています。決して後退しないと誓いを立てているカルロブルグ大剣隊、帝立砲術大学校が兵器開発の実地試験のため設立したナルン甲鉄兵団などなど。

コラムも充実しております。
ウッド・エルフとハイ・エルフの両種族はいずれも弓の腕前で名を馳せているが戦術はそれぞれ対極を成している、ハンドガンナー隊の長所は実戦投入までの訓練期間が短くて済むことである、など実に多様な話題が取り上げられています。

新キャリアとして野営追行者地図職人も掲載。野営追行者は過去の版では軍隊における酒保商人としての役割があったものですが、今回の版では完全に戦場あさりや骨拾い寄りの能力になっています。何しろ収入獲得技能が<野外生存術>となっておりますので。

第3章では帝国各地の騎士団を紹介。
騎士団は州軍とは異なる独自の指揮系統に属しており、新規団員の加入も独自の手続きによるため、章を分けたのでございましょう。

ここでも新キャリアが紹介されております。
騎士団に属していない自由騎士
軍神ミュルミディアに仕える太陽騎士団
戦神ウルリックに仕える白狼騎士団
最大規模の世俗騎士団である金豹騎士団

上記三つの騎士団については歴史、拠点、入団儀式、軍装、戦場での働きについて設定が示されてございます。

この章ではドワーフの職人がウムギたちの作る鎧の欠点について解説しています。“ウムギ”という概念は説明が難しいのですが、ドワーフの言語であるカザリッドで言うところの「見た目は立派だが大きいだけで見掛け倒しの安普請」のような事物を指す言葉です。「看板建築」と訳せば意味合いが近いでしょうか。ドワーフたちは人間のことをそのように呼んでいますえーと、つまりそういうことです。

とにかくまあ、人間が作った鎧の欠点をドワーフの鎧職人が解説するコーナーが設けられているわけです。どこが壊れやすいかの説明もございますので、鎧の破損や修理を描写する際のGMにお役立ちの記述かと存じます。

第4章は傭兵についての記事。ここで掲載されている追加のキャリアは軽騎兵、パイク兵、攻城包囲兵の三種。

設置式の大盾パヴィスを用いるティリア人傭兵部隊はオールド・ワールドの攻城戦で名を馳せてございます。これは我々の世界におけるジェノバの弩兵にちなむものでございましょう。

キャリア成長したクロスボウ兵は工兵になり申す。塹壕を掘ったり、城壁の地下を採掘して敵の城に侵入したり、あるいは逆に城から出撃するための地下道を掘って敵に奇襲をかけたり致します。

地下道の採掘ということで予想がついた皆様もいらっしゃることでしょう、オールド・ワールドにおける最高の工兵はドワーフ達だと言われています。なるほど、ツルハシとクロスボウそして爆発物で武装した工兵というのはドワーフのイメージに合致しています。

初期キャリアでクロスボウ兵になれば、各種装備に加え素敵な羽付きの帽子も貰えます。キャリアを積めば<知識(工学)><職能(鉱夫)>などの役立つ技術が学べます。さあ、アナタもクロスボウ兵団に加入して、邪悪なスケイブンやナイトゴブリンと戦ってみたくありませんか?

TRPGでは後で追加されたデータほど強い、たとえ同じ経験点で成長させたとしても追加サプリに載っているジョブの方が初期ルールブックに載っているジョブより強い、とする俗説がございます。

『Up in Arms』もしかり、追加されているキャリアは特定の戦術に特化する傾向があり、技能も異能もそのキャリアの役割に沿ったものが揃えられています。したがって、ただの「兵士」よりも高い能力を発揮できます。

第5章は地域紹介のページ。オールド・ワールド南方に位置するティリア半島の公式設定がいよいよ公開されました。

ティリアはエンパイアより自由な気風で知られており、政体も様々です。大公国、貴族共和制、豪商議会、商人ギルドによる運営、多様な都市国家が割拠しております。

この章ではミラグリアーノやルッシーニ、レーマにトバロといったティリアの諸都市の現状について、そして現在の統治者について、簡潔にまとめられています。

人口、君主、特産品、軍事力の一覧表もあります。特産品に柑橘類やオリーブがあるのが南国風です。ティリアは海洋国家なので海産物も特産品となっております。その他特記事項を眺めますと、アンデッドが治めている要塞都市があるのが気になりますね。スケイブンの都が近くにあると言われる地域では、住民全員が失踪する町が相次いでいることも目に留まりました。

追加サプリで毎回掲載されるお約束の歴史年表コーナーは当然ティリアの歴史となっておりまして、我々の世界のイタリア半島の歴史を模したものになっています。マルコ・ポーロに相当する人物やルネサンスに相当する出来事についての記述も有り。付け加えておきますとティリアの大都市はエルフの古代遺跡の上に建っております。

肝心なことを伝え忘れるところでした、ティリア出身のキャラクターを創造するためのルールもこの章に載っています。

6章はミュルミディア教団の記事。この章で扱う追加キャリアはミュルミディアの戦闘司祭、追加の《奇跡》も載っています。
ミュルミディア教団の歴史における重要人物についての記述もあります。例えば古代エルフの戦術家、あるいは決闘術の大成者剣聖ヴァランクールのような存命中の人物まで幅広い話題を取り扱っております。

この章の記述によると、帝立技術者大学校の創設者であるレオナルド・ダ=ミラグリアーノ教授も軍神ミュルミディアの信者だったそうです。これはレオナルド・ダ=ビンチの職業が軍事技術者だったことにちなむのでしょう。

ちなみに、ウォーハンマーRPGの世界にはレオナルド・ダ=ビンチを元ネタにしているキャラクターがもう一人います。軍事技師としての側面に基づくキャラクターがダ=ミラグリアーノ教授であるならば、芸術家としての顔を反映した人物が画家のダ=ベンツィオであります。

ダ=ベンツィオ最大の代表作がレーマ共和国シャリア大神殿の天井フレスコ画でございます。歴史あるレーマの都には見所が幾つもございますが、悠久橋やレーマ大闘技場と並ぶ名所をもう一つだけ挙げるとすれば、手前はこのフレスコ画を選びます。

この画にはひとついわくがございます。慈悲の女神シャリアと対になる邪悪な女悪魔が描かれておりまして、これはある人物をモデルに描いたものだと言われているのです。

話が逸れ申した。過去の版を体験している皆様ならご存じの通り、軍神ミュルミディア生誕の地がエスリア王国の都マグリッタか、ティリア半島のレーマなのかで分裂が起きています。4版でもこの設定は引き継がれております。

『Up in Arms』ではこの件についてページを割いて説明しており、単に出身地がどこかという対立以外にも、主要な三つの教典についての解釈の違いなど、様々な項目で違いが表れていることを示しています。

他にも、修道会や他の神格との関係性などの女神ミュルミディアに関する話題が一通り載っております。とても読み応えのある章でした。

7章以降は各種追加ルール。まずは負傷と致命傷に関する新ルールと数ページの致命傷表の章。

8章は題して「補給将校の倉庫」。様々なアイテムや追加の武器が紹介されています。

載っているのは武器だけではございません。弾薬帯や導火線、あるいは砥石のような消耗品と必需品、便利グッズもございます。

中でも驚くべき新製品はナルンの高名な発明家が開発した「キャプテン・ブラウンの万能焜炉」でございます。人気商品「キャプテン・ブラウンの即席調理釜」を製造する工房の新作であるこの焜炉は複数の料理を一度に加熱できるため調理時間を節約でき、さらに従来品より保温性断熱性が高くなっておりますので、熱を逃がさず少ない薪でもより早く料理を暖められるという優れもの。何と荷重点はたったの3点、行軍中のお料理に最適の逸品です。

言うまでもありませんが、武器の追加データもございます。これまで一括りにされていた「片手用武器」に種類ごとの特性や難点を追加し、あるいは価格を変え、武器に個性を持たせています。

ギャロットのような単純な格闘用武器であれば、必要な〈技能〉を持っているならばキャラクター自身で作ることが出来るようになりました。

フェンシング武器を使う「決闘者」は、データ的に他の戦闘系キャリアより格闘戦で不利だと思いませんか?ご心配なく、逆手にマントのような厚めの布を持ち「受け流し武器類」として用いることが出来るようになりました。

射撃武器も各種追加されてございます。拾い集めた小石をスリングの弾丸として使うためのルールや、深手を与える逆棘付きの矢などの矢弾に関する新たなデータもございます。

ハンドガンの銃身に斧を取り付けた“ガン・ハルバード”はいかがでしょう。もちろんウォーハンマーRPGですので、再装填中の暴発にはくれぐれもご注意ください。

ハンドモーター、いわゆるグレネードランチャーもございます。なんとグラップルガンとしても利用可能。

9章は騎乗戦闘の追加ルール各種。これまで曖昧なところがあった<臆病>のクリチャー特性が戦闘に与える影響について、記述がございます。

10章はNPC雇用に関するルール
ルールブック309ページに掲載されている「医者」「運搬人」「地元の案内人」などのNPCについて、何度かD100ロールするだけで個性付けが出来るようになります。
11章遮蔽と構造物の破壊
この章では、大砲や投石機、使用する砲弾に関するデータが掲載されています。これまでにも『Death on the Reik COMPANION(ライク河上の死 冒険の手引き)』など幾つかの追加サプリで大砲についてのデータが何度か登場しておりましたが、『Up in Arms』によってこれまで登場した各種データが整理されました。
ヘルシュトロム・ロケットバッテリーやヘルブラスター・ヴォレイガンのような強力な兵器も掲載されております。『ウォーハンマー ファンタジーバトル』の経験者ならこれらの兵器を目にしたこともございますでしょう。

投射兵器への防御となる遮蔽物の強度に関するルールもあります。

本編はここまで、以降は付録のページ。
優位の追加ルール冒険外活動に関する記述があります。
重要なのは、異能に関する記述をまとめたページかと存じます。
と申しますのも、『Up in Arms』で追加された異能、あるいは追加ルールを適用することで効果が変わる異能がまとめられているためであります。

遺漏はございますが、一通り『Up in Arms』の内容に目を通して参りました。すぐにでも使ってみたい追加データや設定が多数載っておりますが、少々問題がございます。

と申しますのも、現時点の『Up in Arms』PDFデータにはまだ誤記や誤植が残ってございます故。
表の題名と内容が合っていない箇所がある、収入獲得技能が不明なキャリアがある、文章が途中で途切れていると思しき箇所が有る、ほぼ同一の内容が繰り返されているページがある、など。

今はまだ先行予約期間中でございますので、書籍として印刷される頃には訂正されていることでしょう。手前といたしましては、データに訂正が入るまで本格導入を待つつもりでございます。

誤植なのか判別が付かない箇所もございます。

ティリアの西にある島、海賊たちが治める港湾都市サルトサのことでございます。位置的にはシチリア島に相当し、設定的にはポート・ロイヤルとかそのあたりを想像していただければ近いかと存じます。

無法の街かと思いきや、設定を読んでみると“海賊同士での盗みの禁止”など厳格な掟で秩序を維持していることが意外でした。

この港を仕切っているのは大物海賊達です。であるからして、統治者は「海賊王たち(The Pirate Princes)」だと思うのです。ところが現時点では「海賊王女(The Pirate Princess)」と書かれているのです。誤記なのか判別つきませんので、とても気になっているのです。

ちょっと出かけてくるにはサルトサは遠いですが、折角公式設定も出たことですし、確かめるためにティリアまで冒険に出るのも良いかもしれません。