無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

Winds of Magic:ウォーハンマーRPG4版

ンジャー’サク’ルジンバール ティーンチ!(“歪みを作りし者”ティーンチ万歳!)
失礼、つい興奮して叫んでしまいました。
ウォーハンマーRPG第4版の新サプリメントWinds of Magic(魔力の風)』が遂に発売されたのであります。その名前の通り魔法に関する追加データ集でございますので、第2版の『魔術の書:レルム・オヴ・ソーサリー』に相当するものとなります。

単なる追加呪文や追加アイテムのデータ集と想像している方もいらっしゃるかも知れません。さにあらず、『Winds of Magic』にはウォーハンマー世界の設定に深く関わる内容が記述されています。しかも、それらの設定は単なる読み物として提示されているのではございません、ゲームで扱うために必要な各種のルールと併せて掲載されているのであります。

これまでWFRP第4版で何冊もの追加資料が発行されております。しかしながら、『Winds of Magic』に掲載されている情報量はとりわけ頭抜けたものでした。

付け加えておきますと、従来の追加資料と比べて情報が整理されております。したがいまして、必要な情報を探し易くなってございます。

本書は全部で十五の章に分かれております。内容を見て参りましょう。

最初の章で描かれておりますのはウォーハンマー世界における魔法の歴史でございます。

神話時代の“古き者”の到来、先史時代に起きた混沌の襲来、エルフ王国の衰退、エンパイア建国期の古代における魔術禁令、中世の三皇帝時代に魔術師を保護したミドンハイムの狼皇帝、二百年前の帝立魔法大学校設立とその後の騒乱、現在のエンパイアにおける魔術の現状まで。長大な歴史を整理して概要を述べています。

さて、手前が冒頭にて『変容の書』の言葉を引用致しましたのには理由がございます。ウォーハンマー世界における魔法とティーンチ神は切っても切れない縁があるのです。

遙か昔、兄弟神との争いでティーンチ神が深手を負ったとき、その力が細かな欠片となり地上に散らばっていった、これが魔法の起源である。斯様な神話が『Winds of Magic』で語られています。

ウォーゲーム版のウォーハンマーに触れたことのある諸賢はご存じの話と思います。既に知っていたという方は挙手くださいますでしょうか?

・・・魔狩人さん、あいつです。

冗談はさておき、先程の神話は禍つ神々を崇める北方人たちの伝承であり、エンパイア領内では異端思想とされるものでございます。迂闊に口にすると魔狩人に目を付けられるやもしれません。お気をつけくださいませ。

この章には、ルールブックの年表に載っていた幾つかの歴史的事件の話題も取り上げられています。

Winds of Magic』では、完全に読み物に特化したページは第一章のみ。以降の章には必ず何らかの追加データ、もしくは再録データが掲載されてございます。

第二章は、魔法の行使についてのルール各種。再掲も有れば調整が入ったルールも有り、もちろん全く新しいデータも取り扱ってございます。

魔法具材や超過発動、戦闘における接触呪文、射撃呪文の扱いなどゲーム上の魔法の扱いが一通り揃っております。

この章の最初の見所は誤発動表でございましょう。

何故かと申しますに、魔法使いが呪文の誤発動を起こしたとき【秘術の印】の影響を受ける新ルールが追加されているためであります。

ウォーハンマーの世界における魔法使いは徐々に自らの扱う魔法体系を体現する存在へと変わっていくものでして、例えば炎の魔術師は激し易い性格になり、金属の魔術師は動作が堅くぎこちなくなり、死の魔術師は徐々に骸骨めいた容貌へと変わっていきます。本書をもって、第4版でもそのことがルールに反映されたのです。

多くは不利な特徴となるものですが、《樹上性》のクリーチャー特徴を得るとか、金属の価値が直観的に把握できるようになる、等のようにキャラクターにメリットをもたらすものもあります。

ロールの出目によっては《ウルグの覆い》等の異能を獲得することもございます。

いかにも、『眠れぬ夜と息つけぬ昼(Rough Nights and Hard Days)』で追加された新種族ノームが持つ異能、《ウルグの覆い》と同じものです。

《ウルグの覆い》異能の持ち主は、影の魔法体系の呪文を扱う際にボーナスを得ることができます。それだけではなく、〈魔風交信:影の魔法体系〉技能で〈隠密〉の判定ができるようになります。

Winds of Magic』では、《ウルグの覆い》と同様の強力な異能が八大魔法体系それぞれに設けられているのでございます。

第二章には新たな秘術呪文も追加されております。
フェンビーストの強化、敵の発動する魔術の妨害、使い魔の強化、などのサポート的な呪文が幾つも載っています。

ということはつまり・・・、〈直観〉テストに成功したそこのアナタならば察しがついていることでしょう。フェンビーストや使い魔の作成ルールも掲載されているのです。

そう、アナタの魔術師PCも、頼りになる護衛や相棒となる使い魔を作り出せるようになりました。

魔法被造物のデータは第十三章にまとめて掲載されてございます。すぐに該当ページを開きたい気持ちは分かりますが、まずは第二章の残りのページに目を通してくださいませ。

使い魔の創造には儀式呪文を用いることになりますので、まずはそのルールを確認する必要がございます。

第二章では新たな呪文様式として儀式呪文のルールが掲載されています。そして各種儀式呪文のデータ、例えば強力な魔法アイテムを作り出すものや魔法被造物を作り出す儀式呪文、が続きます。

追加の秘術呪文は特定の魔法体系に属してはおりませんので、似非魔術師や魔女あるいは暗黒の魔術師にも修得可能です。儀式呪文は種類によりますが、多くは魔法体系に関わらず修得できます。

Winds of Magic』掲載の新たな呪文のルールを導入することで、冒険シナリオに様々な要素を加えることができると手前は確信してございます。

第三章では追加キャリアが紹介されております。
典礼(Beadle)、名称は仰々しいですが役割としては大学職員であり、能力は衛兵が元になっている戦士系のキャリアです。

なぜ大学職員が戦士系のキャリアなのか説明が必要ですね。『Altdorf: Crown of the Empire(アルトドルフ:エンパイアの帝冠)』で語られているとおり、アルトドルフ大学や帝国博物館は州軍や市警備隊とは別に独自の警備組織を編成しております。

何故独自の警備隊が必要なのかご理解いただくには、エンパイアの代表的な大学を例に挙げると解かり易いでしょう。帝立技術者大学校、ナルン砲術学校、帝立魔法大学校、いずれもエンパイアで最も強力な兵器の数々を管理している機関です。それ故に、スパイや盗賊あるいは内部で生じた危機に対処できる専門的な警備兵が必要となるのです。

アルトドルフ大学は別に危険ではないだろうですって?とんでもない!学生の多くが貴族子弟であるということは、彼らが何かやらかしても市警備隊では手出しできないということであります。このようなわけで、エンパイアの大学は自前の警備チームを持つ必要があるのです。

次に紹介いたします新キャリアは形而下錬金術(Mundane Alchemist)、魔術師ではなく薬剤師の一種と位置づけられています。医療の知識は薬剤師ほどではありませんが、その代わりに魔法に関する造詣が深く、上級キャリアになると初歩的な呪文も使えます

予見者の一種として幻視者(Scryer)が登場しました。基本ルールブックの予見者と持っている異能や技能は似通っていますが、予見者は未来を見通す力を持つのに対し、幻視者は過去に起きた出来事を見ることが出来ます。つまるところ、小説『ベルベットビースト』に登場した心霊捜査官ロザンナ・オフュールスのようなサイコメトリー能力者のことを指しています。

監察魔術師(Magister Vigilant)はその名の通り、魔法大学内部に設けられた監察組織のメンバーです。暗黒の魔術の影響を防ぐために活動しており、いわば魔法大学内の魔狩人の役割を担っています。

新キャリアのキャラクターが使うことのできる新技能や、これまでのルールで紹介されてきた技能の新たな使い方も第三章に載っています。

『Altdorf: Crown of the Empire』で紹介されていたサイコメトリー技能も、幻視者のキャリア紹介に伴い再掲されています。

託宣についても新たなデータが紹介されています。予見者や占星術師以外のキャラクターも未来を知るための判定を行えるようになりました。
例えば、夢を通じてモール教団の司祭がお告げを受ける、あるいは悪魔術師がディーモンから未来を聞き出すといった方法に加え、アルトドルフの魔力占術機を使用するという手もあります。

錬金術師が作り出す驚異のアーティファクト、すなわち望遠鏡や磁石そして石鹸などについても各種データが揃っています。価格や材料費、そしてもちろん作成のためのルールがあります。
日用品ばかりではなく、魔力を操作したりあるいは強力な武器にもなる錬金術アイテムも掲載されてございます。

第四章から第十一章まで、帝立魔法大学校八大学府それぞれについての記事が続きます。いずれの章も同じ体裁、同じページ数で書かれています。掲載されている内容としては、以下の通り
・オールド・ワールドの人々から一言
・各学府の概要
・新キャリア
・魔力の風が及ぼす影響
・大学の校舎
・他の組織との関係
・サンプルNPC
・追加呪文

各12ページで八大学府を紹介するので合計96ページ、これだけで通常の追加サプリ一冊に相当する情報量です。

紹介されているNPCは駆け出しの魔術師から上級魔術師、主席魔術師まで様々。高名なるバルタザール・ゲルト師のデータも掲載されてございます。

新キャリアも見逃せません。各学府特有の魔術師が紹介されています。ルールブックに掲載されている基本的な魔術師にちょっとした変化を付けた程度のものもあれば、異能や技能が大幅に異なるものも有り。キャリアレベル毎の所持品も学府によって特徴があります。

たとえば、灰色の学府の影術師は隠密活動に適した能力を持つ魔術師となります。生命の学府と獣の学府の魔術師であれば、ご想像の通り野外活動に適した異能や技能を修得できるようになっています。
黄金の学府の錬金術師には大きな変更が加えられており、そのキャリアの性質は学者であり職人、そして応用化学の専門家といった塩梅で、地位が高くなるとちょっとした貴族よりも裕福なキャラクターに成長します。

魔法大学の紹介が終わると様々なマジックアイテムの紹介が始まります。

第十二章では魔術師のローブや杖、巻物や呪文書などが紹介されています。『Archives of the Empire vol.II(帝国公文書集 第二巻)』でもマジックアイテムが紹介されておりましたが、今回追加になったアイテムもございますので是非目を通してください。付け加えておきますと、魔術師の呪文発動を強化するアイテムに価格が記載されてございます。つまり購入できるってことです。呪われたアイテムの紹介も充実しております。

魔法薬に関する新たなルール、効果や副作用そして作成方法のルールもこの章に多数載っております。

第十三章は魔法被造物のコーナー。最初に掲載されているのは「元素の化身」、いわゆる炎の魔神だの森林の精霊だのといったものです。

ディーモンプリンスと比べると一歩及びませんが、能力値から推定するとワイバーングリフォンさえも圧倒する、きわめて強力な存在となっています。

純粋な魔力で構成されたモンスターがディーモン以外にも設定されたことで、GMの皆様に新たな着想をもたらすことでしょう。

ルールブックをお読みの方はご存じの通り、翡翠の学府の魔術師がフェンビーストを使役しているという話題がございます。『Winds of Magic』が手元にあれば、公式なルールに則ってフェンビーストを運用できます。

使い魔はクリーチャーとしてのデータだけでなく、キャラクターとして扱うためのルールが整備されています。何と!使い魔専用のキャリアもあります。

第十四章では魔力の風の流れが土地に与える影響についての各種ルールを扱います。

魔力の風の流れについての話題や魔力による汚染についての話題は、例えオールド・ワールドの住人であっても魔術師でなければ知ることができない事柄です。

さらに、エルフが人類に魔術を伝えた際に幾つかの重要な秘密を明かさなかったため、限られた魔術師しか知り得ない情報、例えば“古き者”が築いた地脈やエルフが作り出したウルサーンの大渦などの話題もこの章に載っています。

何故エルフは魔力の流れについての重要な知識を秘匿しているのか。理由の一つは明らかで、あまりに危険すぎるためでしょう。
もう一つの理由は、説明しようにもゲーム上の公式ルールが設定されていなかったことによるのでございましょう。

冗談はさておき、Winds of Magic』にはウォーハンマー世界の根幹に関わる話題が掲載されており、しかもその設定をゲーム上のデータに従って運用するためのルールまで載っているのです。
もしアナタが混沌の領域へと繋がるポータルを開こうとする邪悪な魔術師だったらをシナリオに登場させたいのであれば、大変お役立ちとなること間違いなしです。

その他にも、特定の魔力が強い土地の紹介があります。『ライクランドの記念碑(Monuments of the Reikland)』に掲載されていた建物も載っています。
『Archives of the Empire vol.I(帝国公文書集 第一巻)』によると、ローレローンの森の中にも特定の魔力が収束している場所が幾つかあるようです。

最後の章は悪役NPC紹介。
オールド・ワールド最大の混沌教団を率いる首魁のデータが掲載されています。シナリオ集で何度か黒幕として言及されていた人物のNPCデータが遂に明らかになりました。
他にも、ウォーハンマー40kの世界にも登場する強力なディーモンや、独自の魔法体系を操る妖術師まで個性的な悪役が待ち構えております。

さあ、これで全十五章に一通り目を通したことになります。お気づきかと思いますが、ドワーフのルーン魔術、エルフの至高魔術、キスレヴの氷の魔術などの新呪文体系は本書に掲載されておりません。

しかし、それを補って余りあるほどの圧倒的な情報量が詰まっていることはお分り頂けるでしょう。

繰り返しになりますが、Winds of Magic』にはウォーハンマー世界の設定に深く関わる内容が記述されています
魔術師を強化する数々のルールも掲載されています。役立つアイテムだってあります。

それでも購入を躊躇っている魔術師のそこのアナタ!
本書の末尾に帝国魔法許可証の様式が掲載されてございます。
帝国歴2512年シグマー月1日発行で魔術長官の署名入り。
あとは記入欄にアナタのお名前を書き込むだけで免状が出来上がります。
どうです、お値打ちでございましょう。