無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

Sea of Claws:ウォーハンマーRPG4版

今回は海の話です。エンパイアの人民にとって海と言えば・・・そう、鉤爪湾でございます。今回ご紹介いたしますウォーハンマーRPG4版の追加サプリメントは『Sea of Claws(鉤爪湾)』であります。

以前ご紹介しました第4版モンスターデータ集『The Imperial Zoo(帝立動物園)』では、エンパイアの東の国境となる最果て山脈、西の隣国ブレトニアとの境となる灰色山脈、南の黒色山脈に生息する怪物各種を紹介しておりました。しかし、エンパイアの北を囲む海の生物種は手つかずとなっておりました。

今回ついにエンパイアの北の境、鉤爪湾に棲むモンスター各種のデータが明らかになったのであります。

『Sea of Claws』で扱う話題はモンスターデータだけではありません。貿易港を始めとする鉤爪湾の沿岸地域に関する記述や船旅に必要な各種ルールを取り揃えてございます。表紙から背表紙まで合わせて全159ページ、『Middenheim: City of the White Wolf(ミドンハイム:白狼の都市)』に匹敵するページ数です。

鉤爪湾に関する話だけでこれほど多くの話題になるのか、お疑いですね?
よろしい、それでは内容を見て参りましょう。

ウォーハンマーRPG第4版の追加ルールブックのこれまでのパターンを踏襲し、最初の章は地域の歴史から解説が始まります。歴史年表もこの章に配されてございます。

数千年前の古代から帝国歴2512年(現在)までの内容が見開きに納められております。ウォーハンマーRPGの世界では暗黒神の治める世界に続く門が北極点にあるため、北極圏にほど近い鉤爪湾の周辺では時折物騒なことが起きるものです。

第二章から第八章まで、鉤爪湾の周辺地域の紹介が続きます。

何故これほど多くの章が必要なのか申し上げますに、エンパイアは三方を山脈に囲まれていることが理由に挙げられまする。船を使う大規模な輸送は北回りのルートを採用するほかに無く、必然的に鉤爪湾を通ることになります。したがいまして鉤爪湾はエンパイアの一大交易路であり、海域には諸国の貿易船が航行し、沿岸には大規模な港湾都市が点在しているのです。このように、鉤爪湾とその周辺には語るに足る見所が数多くあるわけです。

地域紹介の最初に登場しますのが、何と!隣国ブレトニアでございます。遂に第4版で初めてブレトニアの紹介記事が出ました。

ブレトニア北岸最大の(そして特筆すべき唯一の)港町、ル=アンギーレブレトニア海軍について。どうやら、ブレトニアの海軍は勅許を得た私掠船に支えられているようです。

残念ながらブレトニアに関する記事のページ数は少ないものです。しかし、厳しい身分制度封建制を維持しているブレトニア王国の実状、特に海事に関する実状、が示されており興味深く読むことが出来ました。

荒ヶ浜とマリエンブルの記事もあります。オールド・ワールド最大の商業都市マリエンブルグの統治制度についての記述があります。前回紹介した『Salzenmund: City of Salt and Silver(ザルツェンムント:塩と白銀の都市)』ではザルツェンムント大学の話をいたしましたが、『Sea of Claws』によればマリエンブルグにも大学があるのです。

にぎやかな学生街は、いかにも活発な商業都市らしいものです。この大学の元々の設立目的は実践的な航海術と地図作製術を教えることだったのですが、自然哲学、医学、法学、さらにはごく最近になって成立した新たな学問「経済学」も学ぶことが出来るそうでございます。

さて、ここからが肝心。マリエンブルグの大学には「海事魔術学部」が存在するのです。“便宜上”アルトドルフ帝立魔法大学校の権限に服することになっていますが、魔法大学校がアルトドルフ以外にもあるとは驚きでございました。

申し添えておきますに、帝立魔法大学校では扱っていない追加の呪文や、海上での魔法の働きに関する追加ルールなどもございます。

ノードランド及びオストランドの沿岸地域の記事もございますぞ。
ノードランド最大の港町ザルツェンムントは既に『Salzenmund: City of Salt and Silver』で解説されております。今回はその他の港町や沿岸の防衛施設について扱います。帝国海軍の歴史や伝統、NPC紹介、都市の紹介もあれば、酒場の紹介、“船の墓場”などの地域に関して。これらの紹介記事と併せてシナリオフックが並んでおります。

鉤爪湾北岸のノーシャと呼ばれる地域の記事も各種ございます。中でも恐ろしいのはトロール。数々の怪物が跋扈する荒野ですが、人跡未踏の地というわけではございません。遊牧民族が生活している地域もございますし、闘争と殺戮の神コーンに捧げられた祭壇やトロールの王が支配する地域などがございます。まあ、恐ろしい土地であることに変わりはありませんな。

ルールブックの一般的なトロールでさえ十分手強いモンスターですが、トロール王ともなると知力、耐久値いずれも通常のトロールの数倍を超える能力値となっております。さらにマジックアイテムを帯び、おまけに特殊ルールまで持っています。まさに怪物の王に相応しいものでしょう。


『Sea of Claws』があればノーシャ人キャラクターを作ることだって出来ます。基本的な能力値はライクランド人と変わりませんが、初期技能、初期異能、初期キャリアに違いがあります。

ノーシャは統一国家ではなく、幾つもの部族が群雄割拠している土地であります。そしてルール的にも属する民族によって初期技能や初期異能に若干の違いが設けられているのです。

ノーシャ人のキャラクターを創造できるようになったことからご推察できますとおり、鉤爪湾の北方に暮らす住民の皆が皆、暗黒神に帰依する略奪者というわけではございません。
「Sea of Claws」に掲載されている内容を確認いたしましょう。
騎馬民族にして恐るべき海賊サゥル族
熟練の船乗りにして恐るべき海賊スケィリング族
交易商人かつ探検家そして恐るべき海賊ビョルンリング族
といった具合です。ご納得いただけましたでしょうか。

キャラクター創造に関して、技能と所持品に関するルールの読み換えが記載されています。ルール上一部の職業では成長時に「黒色火薬武器」「板金鎧」などのアイテムが必要になることがあります。北方の荒野では入手困難なアイテムや修得困難な技能がある場合、データをどのように読み替えて適用するか指針が示されています。

これまでルール通り運用すると蛮族の騎兵が何故か揃いも揃ってエンパイアの兵士より先進的な武装をすることになりましたが、今回の選択ルールによる装備と技能の読み換えを適用すればそのような事態は起こらなくなりました。

さあこれで、北方人のキャラクターを作成する準備が出そろいました。鉤爪湾以北の住民は、エンパイアの住民たちとは大分異なる価値観を持っておりますので、キャラクター創造の際は第Ⅶ章をよく読み込んでおくべきでしょう。

GMの皆様にも一つ耳寄りな情報がございます。新クリーチャー特徴《コーンの烙印》も掲載されています。『Enemy in Shadows COMPANION(影に潜みし敵:冒険の手引き)』で紹介されたティーンチの烙印》に続く、暗黒神の信奉者を強化する異能です。

ノーシャにおけるドワーフの領土について紹介する章もございます。
極北に暮らすドワーフについては第二版時代にも記述がありましたが、当時はごくごくわずかに言及されるのみでした。この度の『Sea of Claws』では彼らの文化について詳細が描き出されています。どうやら鉤爪湾以北のドワーフたちは、最果て山脈のカラザ=カラク至高王の権威を認めていないご様子。精神的な支柱だけではなく用いる技術面でも違いが示されています。設定だけではなく、キャラクター創造の際のデータにおいても若干の差異が設けられております。


『Sea of Claws』には複数の新キャリアが掲載されています。これまでの職業に若干の変化を付けたバリエーション程度のものもあれば、「砂浜漁り(Beachcomber)」「海軍士官(Officer)」のような新たな職業もあり。
海軍士官のキャリアの頂点「提督(Admiral)」まで上り詰めれば、有力貴族に匹敵するほどの影響力を持つことが出来ます。
砂浜漁りは地位こそ低いものの、ごくまれに高価な香水の材料(鯨の胆石)を拾い上げることがあるそうです。つまり、裕福になるチャンスがあるってことです。海岸で見つけた漂着物が冒険のきっかけになるシナリオなんてのも良いでしょう。
鉤爪湾の北側では暗黒神が公然と崇拝されているわけですから、何らかのきっかけでエンパイアの海岸に騒動の元になるアーティファクトが流れ着いても不思議ではないでしょう。

新キャリアの異能や技能の一覧を見ていると、時折記述の重複が見られます。誤記と思われますので、今後の更新が待たれる次第也。

「マナンの船乗り司祭(Sailor-Priest of Mannan)」もキャリアとして設定されております。

マナン教団の詳細を明かす章もあります。
『Power Behind the Throne: COMPANION(玉座の影の権力者:冒険の手引き)』では戦神ウルリック、『Up in Arms(武器を執れ!)』では軍神ミュルミディアの教団の設定を紹介していました。『Sea of Claws』もこれまでの例と同様に、司祭の新キャリア、教団の組織構造、追加の《奇跡》いわゆる神聖呪文、が紹介されています。

第ⅹ章の記述を読みますに、どうやらマナン教団は徒弟制度のような形で聖職者を育てているようだと思える節があります。

海神マナンと対立する海の神格、荒ぶる海の神ストロムフェルズに関する記事も章一つを割いて掲載されています。ストロムフェルズの司祭も新キャリアとして設定が明かされました、追加の《奇跡》、教団の構造、聖地などについての記事もあり。いずれも、これまでルールブックで明かされてこなかった内容です。

後半は数値的なデータの割合がぐっと増えまして、船旅に必要な各種ルールがずらりと並んでおります。船の建造から航海に伴う各種のアクシデント船に搭載する大砲船体の改造貿易の拠点となる港の一覧表海の天候に至るまで内容は多岐に渡ります。

既に『Death on the Reik COMPANION(ライク河上の死 冒険の手引き)』で明かされていた川船のルールと一部重複もございます。しかし、追加された内容があり、単なる再掲でなくルールの扱いが明確になった箇所もあり、といった案配でございますので、既に『Death on the Reik COMPANION』をお持ちの方も購入して損はないものと存じます。

なにより海上船舶は川船より大型で重武装しています。お読みになった方は軍用ガレー船やロングシップ(いわゆるヴァイキング船)をシナリオに登場させたくなることでしょう。


漸く最初の話題に戻りまして、鉤爪湾に棲むモンスターについてでございます。最後の章でモンスターデータが掲載されています。巨大海洋生物が載っている一方で、トリトンや海の精霊のように魔法的な存在も載っています。耐久値三桁超えも珍しくありません。

海に関する大物NPCも載っています。ウォーゲーム版のウォーハンマーに登場していた大海賊やスケイブン水軍の総司令官など。何とこのお方はスケイブン社会の頂点に君臨する十三人評議会の一員であります。

さて、ウォーハンマーRPGには壮大な冒険は似合わないといったイメージを持つ方も多いかと思います。

確かに、キャラクターたちの職業名がネズミ捕りだの行商人だのといった地に足の着いたものが多いことからそう思えるかもしれません。

しかし第四版は、第二版よりもヒロイックというかエピックというか、そのような冒険を指向しているようにも思えるのです。

何故かと申しますに、過去の版ではキャラクターが入手する事は出来ないとされていた強力なアイテム、例えば大砲など、の入手方法がルール上整備されていることが理由の一つであります。

あるいは、歴史年表に名前が載るような大物NPCのデータが数多く設定されており、彼らをシナリオに登場させ易くなっている、場合によっては直接対決することも出来るようになっていることも挙げられます。

そしてモンスターデータに目を移せば、城や軍艦をも見下ろす巨大モンスターが過去の版より明らかに多く設定されているのです。つまり、並大抵の手段では仕留める事が出来ないような怪物を相手とする冒険が想定されているわけです。

というわけで第4版のキャラクターは英雄候補であるという事に御納得頂けましたでしょうか?

 

それでは英雄候補のそこのアナタ!
英雄らしく新大陸ラストリアへ冒険の旅に出てみようとは思いませんか?