無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

Archives of the Empire volume Ⅲ:ウォーハンマーRPG4版

2023年最初の記事は『Archives of the Empire volume Ⅲ(帝国公文書集 第三巻)』でございます。

過去にCubicle7エンターテイメントのブログで予告されていた出版予定によりますと『vol.Ⅲ』はPDFのみで販売される小編との話でございました。しかしながらその後公開された記事を読みますに、どうやら書籍としても出版される方針に変わったご様子。

『vol.Ⅲ』の総ページ数を数えてみましたところ、前作『vol.Ⅱ』と全く同じ95ページ。なかなかの量でございます。

『Archives of the Empire』シリーズでは毎回イサベラ・フォン・ホルスヴィヒ=シュリスタイン殿下の手紙が掲載されております。

過去に手前がこのブログで書いた内容の繰り返しになりますが、イサベラ様は皇帝カール・フランツⅠ世陛下の妹を僭称して療養所に幽閉された身元不明の(おそらくは貴族の血統に連なる)女性です。

『vol.Ⅱ』にNPCとしての詳細なデータが掲載されています。公式シナリオの記述に依りますと、どうやら本当に皇帝陛下の妹君であるらしいことが示唆されてございます。

その素性はどうあれ、穏やかで思いやりがあり、教養と洞察力を備えたご婦人でございます。一方で、相応の敬意を持って接しなければ大変に激高なさる御方でございますゆえ、面会の際はくれぐれもご注意ください。一応付け加えておきますと、殿下は「恐怖」「狂乱」のクリーチャー特徴をお持ちです。

言い間違いではございません。殿下がお持ちのクリーチャー特徴は「恐れ」ではなく「恐怖」です。無用な刺激を与えぬように願います、狂乱中は手が付けられませんので。

話題が逸れ申した。『Archives of the Empire』シリーズで冒頭に掲げられるイサベラ様の手紙には、毎回思い出話や身の回りの出来事が記されておりまして、その内容が『Archives of the Empire』各巻に記されているコンテンツの予告編となっているのでございます。

『Archives of the Empire volume Ⅲ』の内容はこれまでの2冊より雑多なものです。

最初の章はキャラクターたちによる起業とビジネス運営の為のルール。第2版でも『オールドワールドの武器庫』にキャラクターたちがビジネスを始めるための追加ルールがありました。しかし、2版当時はちょっとした収入を得るものでしかなく、選んだ職業による追加の効果は特に示されていませんでした。

第4版ではより細かく設定されておりまして、キャラクターと同様にビジネスにも四段階の成長ルールがございます。キャラクター個人がキャリアを成長させるためにギルド許可証や商売道具を揃える必要があるのと同様、事業を拡張するためには資金や設備、そして使用人を集める必要がございます。このように、キャラクターの成長とビジネスの成長は似通ったシステムで運用出来るようになっているのです。

掲載されているビジネスは10種類。商店や工房、宿屋といったものから寺院や貴族の領地管理、騎士団や犯罪団の運営まで様々な選択肢がございます。

そして、ここからが肝心な話。ビジネスが成長する毎にキャラクターの地位も高くなります。さらに、各業種それぞれに特殊ルールが設定されており、例えば商店の経営者であれば商品を売却するときの判定が容易になります。あるいは工房を経営しているのであれば対応する技能の判定にボーナスを得ます。事業を育てて使用人を増やし、あるいは経営の規模を拡大することで判定をより容易にすることも出来ます。

独自の追加ルールを持つ事業もございます。犯罪団を率いるのであれば、ギャング同士の縄張り争いを行うことができます。襲撃に備えた隠れ家を用意し、用心棒を雇い、財産を隠匿して犯罪帝国を拡張することが出来るのです。

成り上がりを目指すそこのアナタには貴族の荘園管理のお仕事をお勧めいたします。庭師や別荘の管理人から始まり、やがては地方長官や総督にのし上がり、さらに上を目指して有力貴族と肩を並べることだって出来ます。

ウォーハンマー世界で起業のご予定がないそこのアナタにも有用な記事がございます。信仰する神格の寺院内でのみ聖職者が使用できる特殊な異能や騎士団の構成員が追加で習得できる異能が紹介されています。

NPCが経営する商店や企業の設定もこの章に掲載。

第二章は鎧の構造に関する記事で、鎧に関する追加ルールが幾つか。
追加の鎧も載っております。板金鎧の下に着込む布製の衣服や、布や革に金属片を留めて作ったブリガンディン・アーマーといったもの。

新たに登場した兜にもご注目ください。これまでのような視界を遮るものだけではなく、顔を覆う面頬を上げることが出来る洗練された仕組みの兜もございます。この種の兜であれば、面頬を上げている場合に限り〈知覚〉テストへのペナルティを軽減できるのです。

鎧に関する短い章が終わると、第三章からしばらくオールド・ワールドにおける宗教と信仰に関する内容が続きます。

シグマーやウルリックのようなエンパイアの主要な神格とその教団につきましては、既にルールブック第七章に記載されてございます。

今回『vol.Ⅲ』にて語られますのは、エンパイアの社会で主流にはなっていない諸神格の話題でございます。中でも抜きん出た三柱の神々については、教団の指導者、聖地、主要な祭日と聖典、聖印などの詳細な説明があります。

まずは商業神ハントリッヒ。ティリアの神話に依ると、かつて人間だった頃に軍神ミュルミディアと共に各地を旅した商人だったと伝えられています。また別の伝説に依れば、海神マナンの息子として生まれ、世界中を旅して回ったとのこと。あるいは盗賊の神ラナルドの従兄弟であるとする伝承もございます。詐術を用いて不死を得たご親戚とは対照的に、ハントリッヒ様は卓越した交渉術を以て神の地位に昇ったのだそうで。

ラナルド様のご親族につきましてはオールド・ワールドの神話でも判然としない所が多々ございまして、戦神ウルリックの従兄弟であるという話もございます。お二人は世界中を冒険し、時として仲違いをしつつも様々な試練に立ち向かっていったと聞いております。

北方人の戦士と南方人の盗賊という二人組の冒険譚というのは、どこかで聞いた気がいたしますね。確か鼠人の軍勢と戦う話もあったはずです。今ちょっと作者の名前を失念しておりますが、…そう確かフリッツ某とかそのような名前でした。

話が逸れてしまいました。ハントリッヒ教団はエンパイアにおける構成員は少ないものの、既知世界最大の貿易港マリエンブルグにおきましては強い影響力を持ってございます。当地におきましてはヘンドリクと呼ばれており、銀行制度を築いた伝説上の偉人と信じられております。

太陽神ゾルカンの記事もございます。ゾルカン信仰はエンパイアでは然したる影響力を持っていないものの、ティリア半島のレーマ共和国では支配的な地位を占めています。これまでごくわずかに言及されているのみでしたが、えーと確か短編集『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』の一編に登場していたはずです、今回『Archives of the Empire volume Ⅲ』にて詳細な設定と公式なルールが紹介されています。

古代ティリアの頃から信仰されてきた太陽神であり、激しい憤怒に燃え立つ復讐の神でもございます。秩序の神であり、混沌の暗黒神とは激しく対立しています。その一方でオールド・ワールドにおける影響力は減じ続けております。

その理由と致しましてはやはり、シグマーの魔狩人よりも狂信的と言われる厳格さにあるのでしょう。感情を揺るがす原因となる歌や音楽そして踊り、さらに冗談を厳しく禁止しており「正義の怒りを除き、あらゆる感情を抑制せよ」という戒律がございますので。

ルール上でも厳しい制限が課せられているものの、ゾルカンの《奇跡》は強力かつ攻撃的なもので、ゲーム的な制約に見合ったものでございます。

自由な空気と様々な娯楽で知られる文化の都レーマが、これほど厳格な姿勢を持つ教団の中心地となっているのは意外なことかと思われます。ティリアの社会は常に独裁と反乱の間を揺れ動いており、強力な秩序の神を社会の柱として据えることが求められていた、というのが背景の一つでございましょう。

手前考えますにですな、ウォーハンマー世界の歴史は我々の暮らす世界と鏡写しになっているわけです。するとゾルカン教団の厳格な姿勢はサヴォナローラフィレンツェ神権政治時代を踏まえての設定ではないかと。いずれも美術品や奢侈品を火に投じて焼き尽くす傾向がございますので。

そういえば、オールド・ワールドで最も危険な禁書『天空の予言の書』の著者ネクロドモを火炙りにしたのもティリアのゾルカン教団であったと手前は聞き及んでおります。

地母神リアの記事もございます。都市部においては時代遅れで野蛮と見なされているものの、女神リアへの信仰は農村部で今なお強い影響力を持ってございます。

第五章ではリア教団の組織構造、神話、主要な祭日や聖地、そして他教団との関係が紹介されております。

商業神ハントリッヒ、復讐の神ゾルカン、地母神リアそれぞれの司祭が追加キャリアとして紹介されてございまして、もちろん追加の《奇跡》も掲載されています。

下位神や地域神、祖先崇拝などの記述もあり。先史時代から連綿と続く土着の信仰に関する追加ルールもございます。『Archives of the Empire volume Ⅲ』には遙か古代から続く太古教の司祭を作るための追加ルールも載っているのです。太古の信仰が残るアルビオン島の記事も少々。

古代から続く民間信仰の章があるということで予想が付いているかもしれません、似非魔術師のための追加ルールもございます。都市における似非魔術師の生活についての記事もあり。当然ながら追加呪文も各種掲載。

似非魔術師を強化するものとしては他にも、動物の使い魔に関する記事がございます。以前紹介した追加サプリ『Winds of Magic(魔力の風)』にも使い魔に関する各種ルールはございました。しかし、あちらは魔法大学校に所属する公認魔術師を主な対象としております。

魔法大学校の魔術師たちは、使い魔としてホムンクルスを作り上げることを好み、使い魔として動物を選ぶのを時代遅れと見なすものでございます。
一方で、非公認の魔術師たちは野生動物を使い魔にすることを好む、この話題は『Winds of Magic』で既に語られているとおり。

動物を使い魔にする方法が、『vol.Ⅲ』で明かされました。動物の使い魔専用のキャリアと新異能、素型となる様々な野生動物の追加データもあり

猫や烏の他にも穴熊のデータがございます。『vol.Ⅰ』で追加された新キャリア、ハーフリング文化の誇りである「Badger Rider(穴熊騎兵)」が騎乗する大柄な穴熊に関する選択ルールもあり。

似非魔術師、魔女、公認魔術師それぞれの使い魔に対する態度の違いを説明する記事もございます。

第七章は、帝都アルトドルフの住民に関する選択ルール。出身地方によって獲得できる初期異能や技能に差を設ける選択ルールはこれまでのサプリにもありました。アルトドルフは人口百万人の大都市でございますゆえ、街の地区ごとに初期技能の選択肢が設定されているのです。アルトドルフの北側にある妖術地区、つまり魔法大学校があるあたり、の住民は初期技能で〈知識(魔法)〉を選択することだってできるのです。

強化されるのは非公認魔術師だけではございません。第八章では〈魔風交信〉技能の新たな使い方について掲載されています。帝立魔法大学校で教えている八つの魔法体系それぞれに対応する〈魔風交信〉の追加の効果が示されているのです。

最後の章ではNPC冒険者のパーティーがデータ化されています。老騎士アダルベルト卿とその御一行。何とも・・・まとまりの無い連中と申しますか、言ってしまえば有象無象でございまして、えーと、つまりその、司祭から道化まで非常に幅広い人材を引き連れてらっしゃいます。

ユングフロイト家に忠誠を誓う騎士であったというアダルベルト卿の経歴、『ウォーハンマーRPG スターターセット』で示されているユーベルスライクの現状、『Archives of the Empire volume Ⅲ』冒頭に掲載されたイサベラ様のお手紙の内容を考慮しますに、何とも嫌な予感がいたします。