無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

Lustria:ウォーハンマーRPG4版

「陸地が見えた!ラストリアだぞぉぉぉォ!」
乗客の皆様、お待たせいたしました。本船は間もなく新大陸ラストリアの東端、スケギーの港に到着いたします。

ラストリア大陸に関する追加資料集『Lustria』の発売が予告されたのは昨年夏のことでした。表紙画像が公開されていたので間もなく予約開始かと思いましたが、ずいぶん待たされたものです。

その間様々な出来事がございました。ザルツェンムントを出航し鉤爪湾の荒波を越え、混沌騎士が率いる略奪団を退け、さらには幽霊船にも遭遇しましたっけ。

とはいえ、こうして皆様と共に無事に新大陸に、・・・かの有名な戯曲『荒野のスヴェン』の舞台であるラストリアに辿り着き、新たな冒険の世界へと足を踏み入れることが出来ることを喜ばしく存じます。
まあ、生きて帰れるかは別問題ですが。

さて、皆様ご存じの通りウォーハンマーRPGの主な舞台はオールド・ワールドと呼ばれています。
世界史の用語としての“Old World”は旧世界あるいは旧大陸と訳されておりまして、大雑把に言うと大航海時代以前にヨーロッパ人が認識していた世界を指すものでございます。そして、“New World”は南北アメリカ大陸を指す用語として使われてございます。

今回の追加資料集で扱いますラストリア大陸はエンパイアの探検家たちから“New World”と呼ばれており、地図上における位置は我々の世界における南米大陸に相当しています。ラストリア大陸には広大な熱帯雨林が広がり、肉食魚の生息する長大な大河や猛獣の棲息するサバンナがあり、各地に階段状のピラミッドが存在してございます。このように、地勢的にも我々の世界における南米大陸に酷似しているのであります。

オールド・ワールドの住民はラストリアを新世界と認識しておりますが、設定を知っているとこれはなかなか皮肉なものです。登場人物のほとんどが知らないことですが(もちろん、プレイヤーであるアナタは知ることが出来ますウォーハンマーRPGの世界で最古の文明種族はラストリアで誕生したリザードマンなのです

したがって、「新世界」と呼ばれているラストリアは、エンパイアよりよほど古くからの歴史を持つ土地なのです。

申し添えておきますとリザードマンは今なおラストリアを支配している種族なのです(もちろん、アナタのキャラクターも思い知ることになるでしょう)。

新作サプリメント『Lustria』は、冒険の舞台となる地域の単なるガイドブックに留まるものではございません。ウォーハンマーRPG世界の成り立ちに関わる設定が示されているのであります。

すっかり前置きが長くなってしまいました。『Lustria』の副題は「A Mysterious New World of Grim and Perilous Adventure」、神秘に満ちた新たな冒険の舞台がどのようなものか見て参りましょう。

第1章の前半は、まだまだ“おとなしい”内容です。山脈や密林、大河や湾、平原に沼沢地など尋常な地形が描かれた地図、地勢や気候に関する一般的な記事といったものが数ページ続きます。ここではオールド・ワールドの住民が持っているラストリアに対する知識の範囲が示されております。

読み物を挟んだ後半から話の雲行きが一気に変わります。
登場人物が知ることのない、ウォーハンマー世界の根幹に関わる重要情報が示されます。

ウォーゲーム版のウォーハンマーに慣れ親しんでいる皆様には周知の話でございましょうが、WFRP第4版では何度か曖昧に示されるに留まっていたため、以下に示すSF的な設定には戸惑う方も出るものと存じます。

『Lustria』で明かされる設定とはすなわちウォーハンマーRPGの舞台となる世界は高度な星間文明を持つ古代種族がテラフォーミングにより作り上げた実験場だったが、恒星間移動に使うワープホールが制御不能になったため遺棄された惑星である。」という内容でございます。この設定が詳しく語られたのはWFRP4版では『Winds of Magic(魔力の風)』以来ですかね。

追加サプリのお約束である年表も第1章に掲載。何と帝国紀元前一万五千年(千五百年ではなく!)から始まります。古代種族が惑星の公転軌道を変え、超大陸を割って現在の大陸と海を作り、ウォーハンマー世界に住まう様々な種族を創造し・・・と創世神話のように壮大な規模の話から始まり、混沌の襲来による文明の崩壊や鼠人間スケイブンとの戦いあるいはダークエルフによる略奪など歴史の転換点となった戦いを差し挟みつつ、現代に至るまでのラストリア大陸の歴史を描き出しています。

第1章で紹介している地勢が尋常なものだったのとは対照的に、第2章では強大な魔力を秘めた多種多様な土地が掲載されています。ルールブック第10章「荘厳なるライクランド」あるいはシナリオフック集『ライクランドに冒険あり!』でも魔法的な力を秘めた土地は幾つか紹介されておりましたが、どのような理由でその土地に魔力が集まっているのかに関する背景、あるいは種明かし、は避けられていました。

しかし、『Lustria』では魔法の力を持つ土地をもはや過度に謎めいたものとして扱ってはいません。キャラクターたちが知り得ない背景まで含めて設定やデータが掲載されています。
以前出版された『Winds of Magic』で魔法についてルール上の扱いが詳細に示されたためでしょう。

第2章で紹介されている名所旧跡は18件。階段ピラミッドや巨大な地上絵、さらには我々の世界の伝説にある「命の泉」に相当する土地も紹介されています。

第3章は入植地スケギー、帝国歴9世紀に北方人ロステリクソンによって築かれた町でございます。エンパイアの都市と比べるのも烏滸がましい小さな居留地ですが、ラストリア探検において重要な拠点となる港町です。
『Salzenmund(ザルツェンムント)』『Sea of Claws(鉤爪湾)』をお読みの方ならご存じの通り、北方人は優れた船乗りとして世界中で知られており、エンパイア人とは大きく異なる文化を持っています。

えーと、つまりその、スケギーにおいてはですね、エンパイアでは禁教とされている暗黒神が公然と信仰されており、信仰と文化の両面において支配的な地位を占めているのです。

統治者アデラ王、ちなみにスケギーでは統治者の称号に性別による違いをもうけてございませんので女性でも称号は「王」でございます、そのアデラ王ご自身も北方の神から祝福を賜っています。つまりルール的にはミュータントだってことです。

スケギーの政治体制や経済、町の地図や主要施設がこの章で示されております。ルールブックやスターターセットで紹介されてきたライクランドの街とは驚くほど異なってございます。異国の風情を是非ご堪能ください。

第3章の後半ではスケギー周辺にある小規模な集落が紹介されています。
スケギー以外の港を探検の拠点にしたいなら止めやしませんが、狂信的な修道院とか幽霊が取り憑いている廃村だとかに比べれば、スケギーはまだマシな方です。

第4章にはスケイブンによって滅ぼされた都市の詳細が描かれています。スケギーから南西に数百マイル、密林の道なき道を踏み越えた先にある神殿都市キュエ=ツァの廃墟でございます。
ケイブンはそれぞれ得意分野を持つ氏族に分かれており、中でも特に有力な四大氏族がございます。スケイブンについては『The Horned Rat COMPANION(角在りし鼠 冒険の手引)』にて詳しく説明されていますので詳細な説明はそちらを読んでくださいませ。

鼠人間スケイブンの歴史においてラストリアは大きな位置を占めております。四大氏族の一角を占める大氏族、疫病の申し子たるペスティレン族はラストリア大陸にて誕生したのです。したがいまして、ペスティレン族の疫病教団にとってラストリアは重要な聖地なのです。

ラストリア東岸には、スケイブンが崇める神“角在りし鼠”に捧げる祭壇と玉座の間がございます。見た目に恐ろしいだけではなく特殊ルールが設定されており、単に近づいただけでもアナタのキャラクターを危険に曝すものとなっております。

次の章もまた恐怖に満ちた内容となります。第5章はラストリア南東に広がる吸血鬼海岸、その名前の通り吸血鬼が住む海岸でございます。この地の支配者の名はルーサー・ハーコン卿。PCゲーム『Total War Warhammer』シリーズに登場する人物ですので、名前をご存じの方もいらっしゃることでしょう。

ルーサー・ハーコン卿はスケギーの成立とほぼ同時期にラストリアに上陸した吸血鬼で自称吸血鬼海岸の海賊王、最高大提督、あるいはラストリア皇帝を名乗ってございます。どうも誇大妄想の傾向が見られます。
記憶の欠落が指摘されているなど、他にも色々と精神的に不安定なところがあるご様子。

自称ラストリア皇帝の居城と支配する都市、領土、腹心についてこの章で描かれています。

第6章はラストリア大陸の南端にあるエルフの要塞「黄昏の城塞」の紹介記事。
城の歴史に続いて概要が示されています。ハイ・エルフ水軍の軍港を抱える島だけではなく、周囲には墓地や薬草園など特定の役割に特化した島々がございます。中には交易をおこなっている港もあるようでございますぞ。
ラストリア周辺のハイ・エルフ居留地に関する記事もあります。エルフの水軍を指揮する将軍や城塞そのものにも隠された設定があり、シナリオフックとして利用できそうです。

地域紹介だけではなく、様々な話題が4章から6章にちりばめられてございます。
たとえば数々のNPCデータ、スケイブンを指揮する疫病教団大僧正やルーサー・ハーコンとその腹心、あるいは彼らの同盟者も載っています。
もちろんエルフ水軍の将軍にもデータが設定されており、彼らが使う軍船の武装に関する追加データも『Sea of Claws』と同じ書式で掲載されています。
さらにはダークエルフ艦隊を指揮する海魔卿ロクヒィル・フェルハートと部下の海賊たちの武装も紹介されています。

第6章には追加呪文もあり。魔法で濃霧を発生させて奇襲を行ったり拠点の場所を隠したりというのは、いかにもエルフやダークエルフが好みそうな戦術です。

第7章ではいよいよリザードマンの都市が紹介されます。ラストリア大陸各地に点在する神殿都市について、統治者や都市の概要に関する記事が続きます。神殿都市の一つを例に取り、都市の構造や施設そして防衛力について紹介するコーナーもあり。

エンパイアの都市と比べると野蛮に見えますが侮ってはいけません。エンパイアに魔法の使い方を伝えたのはエルフたちですが、エルフに魔法を教えたのはリザードマンです。上古の時代にエルフに魔法を手ほどきしたまさにその魔術師が、今なおラストリアの神殿都市を治めているのです。せいぜい百年かそこら魔術をかじった程度の連中では想像もつかない強大な魔力がラストリアには満ちており、神殿都市の統治者はその力を意のままに操ることが出来るのです。

リザードマンは周囲の自然環境を操作する魔術に通じており、熱帯雨林の肉食植物の多くが温血動物のみを攻撃する性質を持っている、つまり変温動物であるリザードマンは安全に森を通過できる(ルール上もそうなっています!)のも、魔法的な影響によることが『Lustria』で示唆されています。

したがって、リザードマンの神殿都市を敵に回すことは、ラストリアの大地そのものを敵に回すことでもあるわけです。

リザードマン種族の詳細に関しては第8章「‘旧き者’の従者たち」に記されてございます。

古代種族‘旧き者’についての記事から始まり、テラフォーミング計画の要となるべく創造された種族“スラン”に関する記事がそれに続きます。
リザードマンの支配階級であるスランは玉座に腰かけた巨大ガエルのごとき外見で、ウォーハンマー世界で最も強大な魔術師です。どれくらいの力を持つかというと、‘旧き者’の命令に従い惑星の公転軌道を変え、大陸と海を分かち、陸地に山脈や湖を築いたのは彼らだという話ですから、まあ設定上は手に負えない強さでございます。

ゲーム上のデータとして実際に強いのかも知りたいですよね!

『Lustria』にはスランのクリーチャーデータが掲載されています。

そうです、データが載っているのです。しかも複数。スランの中では最も力の弱い者でさえ、魔法や知的活動に関する技能の値は100を超えています。最強レベルの者となると、複数の能力値が(技能ではなく能力値が!)100を超えています。
さらに種族特有の特殊ルールを幾つも持っており、特殊ルールだけで見開きページを丸ごと費やすほどです。

それだけではありません、ウォーハンマーRPG第2版の頃は強力すぎるためデータが存在していなかった魔法体系「至高魔術」のリストが『Lustria』に掲載されているのです。

ほとんどの場合、至高魔術を使うことが出来るのはNPCに限られることでしょう。しかし理屈の上ではPCもリストにある呪文を修得することは可能です。
もちろん、ルールの制約上エルフの魔術師に限られますが。

第8章の中盤以降は、スランに仕える様々なリザードマン種族の紹介記事です。鰐に似た外見の戦士階級種族であるザウルス。二足歩行するイモリのような姿のスキンクは労働者階級。スキンクはリザードマンの中では最も多様性に富んでおり、中には神官や偵察兵になる者もいます。ザウルスよりも巨大な体格を誇るクロキシゴールは見た目の通りの怪力で、神殿都市の建材を軽々と運んでいきます。有翼の蛇のごとき姿をしたコアトルリザードマン社会階層の外に位置づけられていますが、‘旧き者’の御使いとして神聖視されているようです。

先に述べた通り、スキンクは他のリザードマンよりも個性に幅があります。戦士としての役割に特化したザウルスや、怪力を活かした単純労働のみを担うクロキシゴールとは違い、スキンクはリザードマンの社会を維持するための様々な役割を果たしています。
神官や書記、職人、農業労働者など様々なスキンクNPCを簡単に創造するためのテンプレートが第8章に載っています。

プレイヤーキャラクターとしてスキンクのキャラクターを使うための情報も掲載されています。
そうです、アナタはリザードマンをキャラクターに選ぶことだってできるのです。

ルールブックに載っている他の種族とはあまりにも異質な存在であるため、リザードマンのキャラクターを運用する際に注意すべき事項についてもこの章にあり。身体機能から文化、信仰や社会構造に関する設定も詳細に述べられています。

オールド・ワールドの住人はラストリアのリザードマンを野蛮で攻撃的な種族と見なす傾向があります。リザードマンの方でもオールド・ワールド人を野蛮な敵対種族と認識しておりますので、まあおあいこですね

第9章はラストリアの生物について。追加モンスターデータ集『Imperial Zoo(帝立動物園)』では、オールド・ワールドの南方に生息する恐竜たちが紹介されておりました。
期待に違わず、『Lustria』には様々な恐竜のモンスターデータが載っています。再掲されているカルノサウルスやステガドンに加え、全身を分厚い鱗で覆っている鎧竜や空を滑空する翼竜、水生の魚竜も新たに掲載。

しかし、ラストリアで恐ろしいのは巨大な怪物ばかりとは限りません。毒性の刃を持つ植物や犠牲者を待ち伏せする肉食性の植物、病原菌を媒介する昆虫や寄生虫などなど。
これらに比べれば、いくさ群れを組んだサベッジオークの方がまだ与し易い相手かもしれません。

ラストリアの熱帯雨林は大小さまざまな危険を取りそろえてアナタのお越しをお待ちしております。

第10章ではラストリアでの冒険に関する様々な記事を紹介。
冒険のきっかけや動機の例、複数の追加キャリア、開拓地の運営ルール、神殿都市の探索表もあれば神殿都市の略奪表もあり。ラストリアにおける新たな冒険外活動のルールもございます。

第11章にはラストリアを舞台にしたシナリオが掲載されています。詳細なデータは省いているものの、新大陸における冒険の雛型として使用できるものが幾つか紹介されています。

ずいぶん長く話し込んでしまいましたが他にも内容は盛り沢山。オークのまじない師が用いる呪文、リザードマンの扱う武器や‘旧き者’が遺した兵器、追加のクリーチャー特徴、新たな疫病ルール、不死鳥王の三種の神器に関する設定などなど、残酷で険難な世界の冒険に新たなメニューが多数追加されました。

爽快な経験をお望みでしたら、滑空飛行装置のデータも載っております。

ぜひお試しください。スリル満点ですよ。