無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

Tribes and Tribulations:ウォーハンマーRPG第4版

Waaagh!(訳:イクサだぁぁァ!)
失礼、興奮して叫んでしまいました。
2024年最初のウォーハンマーRPG第4版追加資料集は『Tribes and Tribulations(戦辛蛮苦)』でございます。

表紙絵を見れば本書のテーマは一目瞭然、オークにゴブリンそしてトロールがぎっしり詰まっております。ウォーハンマー世界で悪役を担っているオーク&ゴブリン、すなわちグリーンスキンと総称される種族の背景設定とデータを満載した資料なのでございます。

ちなみに英語の定型表現で「Trials and Tribulations」と申しますと、試練や困難に次々と遭遇する様子を表すのだそうで。日本語に訳しますとそうですね・・・艱難辛苦とか千辛万苦とか、まあ大体そのような意味合いでございましょうか。

さて、1月19日にウォーハンマーRPGの界隈に新たなニュースが届きました。丁度この日に戦略ゲーム版ウォーハンマーの新作『Warhammer: The Old World(ウォーハンマー:ジ・オールドワールド)』が本格始動しておりまして、何と!このタイミングに合わせてキュービクル7エンターテイメントは『ジ・オールドワールド』を題材にした新作RPGを開発中と発表したのであります。

『ジ・オールドワールド』の舞台は帝国暦2270年代ですから、ウォーハンマーRPG4版の時代のざっと250年前、エンパイア三皇帝時代の頃でございます。これはこれで楽しみではあるのですが、そうするとWFRP4版はどうなる?不安になりますよね。手前は不安になり申した。

インスタグラムで公開された記事の続きを読んで参りますと、『ジ・オールドワールド』RPGウォーハンマーRPGは併存して展開していくとの記述がございまして、「WFRPの製品もこの先数年分の企画が進行中、どんどん出版していくから安心してね!(意訳)」ということですので、まずは一安心といったところです。

WFRP4版で進行中の企画は何があったか思い返してみますに、昨年夏にキュービクル7から発表された出版予定に依りますれば、えーと確か「ドワーフに関する設定資料集」「エルフとウルサーンの諸王国」「貿易都市マリエンブルグ」「混沌の暗黒神に関する資料」、この4つが2024年に展開されると伺っております。

他にも、盗賊や野外活動を行うキャラクターのためのデータ集を作成中という話がだいぶ前にありました。

オーク&ゴブリンに関するデータ集については、これまで全く言及が無かったので完全に不意を付かれました。うれしい驚きです。

話が逸れてしまいました、『Tribes and Tribulations』の話を致しましょう。

ウォーハンマーRPGにおけるオークとゴブリンはメイン悪役の一角を占めてございまして、戦いと破壊と略奪を何よりも好む種族と設定されております。

特にオークの好戦性は凄まじいもので、目の前にいる全てのものを、それこそ生物/無生物を問わずあらゆる物をギタギタのボコボコに叩きのめしたいという衝動に駆られており、敵が居なくなると仲間内で争い始める習性を持つという、つまり何と言うかその・・・、エンジョイ&エキサイティングな連中なのであります。

何故これほど好戦的な気性を持っているのかという謎については、ウォーハンマー40Kの方で理由が示唆されてございます。尤も、エンパイアに暮らす善良な臣民の皆様が40K世界の秘密を知ることはありませんので、知らなくても全く差し支えございません。

オークやゴブリンは(とりわけオークは)行動原理が単純なためGMにとって使いやすい悪役である一方、そのシンプルさ故にキャラクターとしての差異化が難しいという欠点があります。

個性的なオークやゴブリンをシナリオに登場させたいそこのGMのアナタ!いますぐ『Tribes and Tribulations』を手に取ってください。

各種「クリーチャー強化テンプレート」をオークとゴブリン及びその亜種に適用することでどのようなキャラクターが作れるか、いくつもの例が示されています。

いかにも、手前たった今オークとゴブリンの亜種と申しました。
これまで出版された追加資料でデータが紹介されている亜種、たとえば森林地帯に棲息するフォレストゴブリン、地底奥深くに潜むナイトゴブリン、金属の使用を拒み先祖帰りを起こしたサベッジオークなどに加えて、4版では初登場となる種族も掲載されています。

東方の荒野を駆ける騎馬民族ホブゴブリン、悲嘆山脈でオウガの召使いとして生き延びているノブラー、そしてあらゆるグリーンスキン種族の中で最強と目されているブラックオークも遂に登場。

さらに、オウガやトロールについての記事もございます。その件については後述することと致しましょう。

ウォーゲーム版におきまして、オークやゴブリンは一定の確率で仲間割れを起こして同士討ちをするというルールになっております。『Tribes and Tribulations』の追加ルールにより、WFRPでもグリーンスキン種族は仲間割れを起こすようになりました

ホブゴブリンがいると仲間割れの確率が高まります。一方、ハガネの規律を持つブラックオークの皆様は「オーク&ゴブリンの反目表」の影響を受けません。まあ、ブラックオーク自身は仲間割れを起こさないとしても、仲間割れを起こした手下をタコ殴りにするでしょうから、結果はあまり変わらないと思うんですけどね。

とはいえルール的には、ブラックオークの目が届く範囲でオークやゴブリンが同士討ちを始めることはありません。

グリーンスキン種族が乗騎として使役する動物や戦場で用いる大型の兵器についてもデータが紹介されています。さらには、オークやゴブリンの名前一覧まで載っており、至れり尽くせりの内容。

『Tribes and Tribulations』では複数の章を使ってオークとゴブリンの部族を紹介しています。名前を挙げますと・・・、

・ドラクヴァルドの森に棲息するフォレストゴブリン「百眼族」
・大型兵器の扱いに長けたゴブリン「折れっ鼻族」
・再起の機会を窺うオークの略奪隊「黒色山賊団」
・ゲリラ戦を得意とするサベッジオーク「岩蛇族」
・ホブゴブリンの部族「オグラ=カーンの狼賊団」
・オウガ傭兵「マトソッグの売剣団」

いずれの集団の構成員も「クリーチャー強化テンプレート」を用いて作られておりますので、テンプレートでどのようなNPCを作れるか具体的に示すものとなってございます。

同じテンプレートを用いたとしても、それぞれ種族が異なり、さらに設定や所持品そして乗騎を変えているため、多種多様な個性を作り出すことが出来るのです。

それぞれの章で各集団の強みも紹介されています。カリスマ的なリーダーがいるとか、特殊技能を持っているだとか、豊かな物資を得ているとか、そういった背景の説明がされています。加えて部隊編成と得意な戦術、旗印についても記載あり。

トロールについては別途章を設けております。トロールは様々な環境に適応できる生物でございまして、ルールブックに載っている学者のコメントによるとエンパイアには23種のトロールが棲息しているとの話でした。

トロール用テンプレート」を活用することで、ストーントロールリバートロールケイオストロールなど様々なモンスターを作ることが出来ます。古老トロール巨大トロールなど、種類に関係なくあらゆるトロールに適用できるテンプレートもございます。

『Tribes and Tribulations』には2つのクリーチャー用テンプレートが掲載されております。丁度良い機会ですので、これまで発売されてきたテンプレートの内容を振り返ってみましょうか。

・『Cluster Eye Tribe(百眼族)』クリーチャー強化テンプレート
・『Night Parade(百鬼夜行)』アンデッド強化テンプレート
・『The Warband of Bayl of many eyes (多目のバイルの戦旅団)』ケイオスウォリアー強化テンプレート
・『Salzenmund: City of salt and silver(ザルツェンムント:塩と白銀の都市)』様々な小妖精テンプレート
・『Tribes and Tribulations(戦辛蛮苦)』クリーチャー強化テンプレート(再掲)、トロール用テンプレート

ざっとこんなもんです。

『Tribes and Tribulations』には他にも、オウガが操る大食魔法の追加データが掲載されております。大食魔法に関する詳しい内容は既に発売されている『Archives of the Empire volume.II(帝国公文書集 第弐巻)』を参照するようにと書かれていますが、『vol.II』には載っていない内容もございます。

例えば、「大食魔法の誤発動表」。オウガの魔術は、人間やエルフが扱う魔術とは異なる体系でございます故、誤発動の結果も異なってございます。

設定上、ウォーハンマー世界のオウガは学術的に呪文を理解して魔法を使っているものではありません。はらわたの底から湧き上がってくる感覚に従って魔法の力を操っているものでございます。そして呪文発動のルールにも、この設定が反映されているのです。

誤発動に関しても同様に、オウガの魔法は彼らの胃袋で生成されているという設定が活かされているのです。

どういうことか説明いたしましょう。オウガの呪術師が誤発動を起こすと、彼らの消化器官の中で有害な魔法的副産物が発生します。さほど深刻なものでなければ当人の健康を害するだけで済みますが、場合によっては胃から食道を逆流して吐き出され、あるいは、その、消化管を順繰りに通って排出され、暴走した魔力が周囲に被害を及ぼすものであります。

誤発動表の結果によっては、オウガが種族的に持つ飢えを体現した神”大アゴ様”の力の一端に触れてしまい、内側から食われてしまうということもあり得ます。

「大食魔法の誤発動表」には様々な記述がございますが、胃腸のトラブルを招く結果が数多く示されている、と申し上げておきましょう。

魔法が追加されたのはオウガだけではありません。グリーンスキン種族が使う“グァーグ!魔術”にも各種の追加データがございますぞ。
これまで『スターターセット(Warhammer Fantasy Roleplay Starter Set )』『Empire in Ruins(エンパイア荒廃す)』『Lustria(ラストリア)』で小出しに紹介されて参りましたが、今までの内容を再録し、さらに新たな呪文も加えてグァーグ!魔術を一挙に掲載。

設定上、人間やエルフの魔術師は魔法を操るためにウォーハンマー世界を吹き抜ける魔力の風から力を引き出していますが、オーク・ゴブリンの魔法は全く異なる所からエネルギーを得ているのです。この設定がルールにも反映されていました。

もちろん、誤発動につきましても他種族とは異なっており「グァーグ!魔術の誤発動表」が新たに設けられています。色とりどりの閃光や電弧そして爆発などなど、グァーグ!魔術の不安定さを示す描写が多々ございました。

欠点ばかりが追加されたわけではありません。敵に強烈なダメージを与える攻撃的な呪文も複数あり。モルク神(狡賢さの化身で究極の蛮性を兼ね備えた神、特にゴブリンが崇拝している)の御手を召喚して敵一体を軽くつまみ潰して戴くとか、ゴルク神(蛮性の権化で最高の狡賢さを併せ持つ神、特にオークが崇拝している)のおみ足を招来して敵軍を踏みつぶして戴くとか、そういったスケールの大きな新呪文が使えるようになったのです。

さらに、オーク&ゴブリン専用のマジックアイテムも複数掲載!

このように、『Tribes and Tribulations』が手元にあればプレイヤーの皆様に様々な好敵手をご用意出来るものと存じます。

GMの皆さん、準備は万端ですね?それではご一緒に!
膝を軽く曲げて腰を落とし、拳を天に向かって突き上げて、
「Waaaaaagh!(訳:イクサだぁぁぁぁぁァ!)」

Taverns of the Old World:ウォーハンマーRPG4版

気が付けば前回の記事からすっかり間が空いてしまいました。皆様いかがお過ごしでしょうか。

この9ヶ月の間も、ウォーハンマーRPG第4版の追加資料が何冊か出版されております。

しかしながら、今回のお題でございます『Taverns of the Old World(オールド・ワールドの酒場)』より前に発売された3冊の資料にはいずれも内容を紹介し難い理由がありまして、更新が遅れてしまった次第にございます。今回まとめて紹介いたしましょう。

今年6月に『Ubersreik Adventures vol.III(ユーベルスライク冒険集 第三巻)』が発売されております。言うまでもないことですが、邦訳版が出版されている『ユーベルスライク冒険集(Ubersreik Adventures)』シリーズの3冊目。言うまでもないことですが、冒険の主な舞台はユーベルスライク公領。そして言うまでもないことですが、シナリオ集でございます。したがいまして、ネタバレにならないように伝えるのが些か難しうございます。

シナリオ本編の内容に触れずにお伝え出来る範囲でお話しするということでご容赦願いたく存じます。

ユーベルスライクは『ウォーハンマーRPG スターターセット』でも主要な舞台となっております。しかしながら、『vol.III』とスターターセットでは若干時代が異なってございます。スターターセットは帝国暦2512年のユーベルスライクを舞台としており、一方で『Ubersreik Adventures vol.III』では帝国暦2515年以降に起きた出来事を取り扱っているのです。

大した違いは無いと思っているそこのアナタ!今すぐ『ユーベルスライク・ガイドブック』をスターターセットの箱から取り出し、10ページに記載されているコラム「ところで、今って何年なのかな?」を読み直してくださいませ。この三年の間にユーベルスライクは大変な動乱に巻き込まれたのでございます。長編キャンペーンシナリオ『Enemy Within(内なる敵)』の冒険を生き延びた皆様ならご存じの通り、エンパイアもまた混乱の渦中にございました。

『Ubersreik Adventures vol.III』の冒頭では、帝国暦2509年から2516年にかけて起きた様々な事件がエンパイアの権力構造にどのような影響を与えたか、時系列に沿って説明されております。「様々な事件」の中には、これまで発表されてきた公式シナリオでの出来事もあれば、設定だけが存在しプレイヤーたちが関わることのないイベントもあります。『 vol.III』によって、これまでの公式シナリオの背景や前後関係が明かされているのです。

もちろん、アナタの自作シナリオでは『vol.III』で示された歴史とは違う展開であったり、あるいは『Enemy Within』キャンペーンが想定とは異なる結末を迎えたためアナタのグループでは本書の記載をそのまま使うことが出来ない、ということもございましょう。

心配ご無用「But that Didn't happen in My GAME!(だけどさ、ウチの卓ではこうならなかったんだよ!)」というコラムが設けられておりまして、公式の展開とは違う結果になった場合にシナリオをどのように調整したら良いか、言い訳の仕方と併せて紹介しております。

8月に発表された『Forest of Hate(憎悪の森)』は短編シナリオでございます。

シナリオの内容に直接関係の無い話題の中に大変興味深いものがございましたので、その話をいたしましょう。

『Forest of Hate』ではエルフの葬送儀式に関する設定が語られています。シナリオ本編とほとんど関わらない記述であるものの、これまで発売されてきた設定資料の情報と接ぎ合わせていくことで、ウォーハンマーRPGにおけるエルフ種族の死生観に関わる重要な設定が浮かび上がってくるのです。

例えば『Archives of the Empire vol.I(帝国公文書集 第一巻)』では、ローレローンの森の木々がエルフの女王を守っている理由について記載がありました。たった7単語の記述ですが、その設定を踏まえて『Forest of Hate』を読むことで、森エルフの価値観に対する理解が深まることでしょう。

9月に発表されたのは『Reikland Miscellana(ライクランド雑録集)』。その名前の通り、これまでPDFで販売されていた8つのミニ設定集を1冊にまとめたものでございます。
うち4つは邦訳版の出ている『ライクランドの建築(Buildings of the Reikland)』『ライクランド奇譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集(One Shots of the Reikland)』『ライクランドの記念碑(Monuments of the Reikland)』『比類なく有益なスラサーラの呪文集(Sullasara's Spells of Unrivalled Utility)』。
残りの4つはまだ邦訳が出ていない『Patrons of the Old World I&II(オールド・ワールドの後援者たち1&2)』『Shrines of Sigmar(シグマーの神殿)』『Blood and Bramble A Score and Four Spells for Witches and Hedgewitches(血と棘 魔女と似非魔術師のための二十と四の呪文集)』でございます。

すっかり長く話し込んでしまいました、当初お伝えする予定であった『Taverns of the Old World(オールド・ワールドの酒場)』の話を致しましょう。

題名からお察しの通り、オールド・ワールド各地の酒場や宿屋に関するデータ集です。
酒場の設備や価格帯、あるいは客層をランダムに決めるための表が多数掲載されておりますので、サイコロを振るだけでシナリオの舞台となる酒場や宿屋に様々な個性を付与することが出来ます。
その日泊まる宿の設定を決めるだけでなく、シナリオフックとしてもご活用頂けることでしょう。

汎用的なNPCデータも複数紹介されておりますので、様々なキャラクターをその場で用意しなければならなくなったときにご活用頂けます。例えば酒場の用心棒や宿の料理人、安酒場の亭主あるいは高級ホテルの支配人などをシナリオに登場させる際に、大いに役立つことでしょう。典型的なNPCデータでは物足りないという方は『Up in Arms(武器を執れ!)』に掲載されている雇い人テンプレートを用いてみてはいかがでしょう。元・船乗りの用心棒や、引退した冒険者で宿屋のオーナー、あるいは更生した盗賊で腕利きの料理人といったNPCが簡単に作れます。

残念なことに、『Taverns of the Old World』にはアナタのキャラクターを大幅に強化するアイテムや新たなキャリア、あるいは便利な新《異能》だのといったものは載っておりません。
しかしながら、シナリオの雰囲気を盛り上げる各種の小道具が載っておりますので、GMのアナタにはきっと役立つはずです。

〈世間話〉〈大酒飲み〉技能の利用価値がグッと高まりますし、エンパイアで消費される代表的な酒の銘柄もずらりと取り揃えております。

ヴュルドバット産のワインマリエンブルグ・ペールエールのようなありきたりの飲料から、皇帝カール・フランツ陛下ご愛飲の蒸留酒“エヒト・ブランデンブルガー”まで、お値段も様々。
バグマンの特級酒を始めとする様々なドワーフ醸造酒もございます。

スターターセットには「ワインの味などてんで判らぬくせにワイン通を気取っている」御仁が登場しておりますので、そのような輩に文字通り一杯食わせるときにも『Taverns of the Old World』のワインリストは活用できます。

来年にはウルサーン諸王国の設定も明かされるそうですので、アナタのキャラクターもオールド・ワールド各地を冒険することになることと存じます。
旅先で宿の目星を付ける際にこの一冊があれば快適に過ごせることでしょう。まあ、サイコロの出目にも依りますが。

Lustria:ウォーハンマーRPG4版

「陸地が見えた!ラストリアだぞぉぉぉォ!」
乗客の皆様、お待たせいたしました。本船は間もなく新大陸ラストリアの東端、スケギーの港に到着いたします。

ラストリア大陸に関する追加資料集『Lustria』の発売が予告されたのは昨年夏のことでした。表紙画像が公開されていたので間もなく予約開始かと思いましたが、ずいぶん待たされたものです。

その間様々な出来事がございました。ザルツェンムントを出航し鉤爪湾の荒波を越え、混沌騎士が率いる略奪団を退け、さらには幽霊船にも遭遇しましたっけ。

とはいえ、こうして皆様と共に無事に新大陸に、・・・かの有名な戯曲『荒野のスヴェン』の舞台であるラストリアに辿り着き、新たな冒険の世界へと足を踏み入れることが出来ることを喜ばしく存じます。
まあ、生きて帰れるかは別問題ですが。

さて、皆様ご存じの通りウォーハンマーRPGの主な舞台はオールド・ワールドと呼ばれています。
世界史の用語としての“Old World”は旧世界あるいは旧大陸と訳されておりまして、大雑把に言うと大航海時代以前にヨーロッパ人が認識していた世界を指すものでございます。そして、“New World”は南北アメリカ大陸を指す用語として使われてございます。

今回の追加資料集で扱いますラストリア大陸はエンパイアの探検家たちから“New World”と呼ばれており、地図上における位置は我々の世界における南米大陸に相当しています。ラストリア大陸には広大な熱帯雨林が広がり、肉食魚の生息する長大な大河や猛獣の棲息するサバンナがあり、各地に階段状のピラミッドが存在してございます。このように、地勢的にも我々の世界における南米大陸に酷似しているのであります。

オールド・ワールドの住民はラストリアを新世界と認識しておりますが、設定を知っているとこれはなかなか皮肉なものです。登場人物のほとんどが知らないことですが(もちろん、プレイヤーであるアナタは知ることが出来ますウォーハンマーRPGの世界で最古の文明種族はラストリアで誕生したリザードマンなのです

したがって、「新世界」と呼ばれているラストリアは、エンパイアよりよほど古くからの歴史を持つ土地なのです。

申し添えておきますとリザードマンは今なおラストリアを支配している種族なのです(もちろん、アナタのキャラクターも思い知ることになるでしょう)。

新作サプリメント『Lustria』は、冒険の舞台となる地域の単なるガイドブックに留まるものではございません。ウォーハンマーRPG世界の成り立ちに関わる設定が示されているのであります。

すっかり前置きが長くなってしまいました。『Lustria』の副題は「A Mysterious New World of Grim and Perilous Adventure」、神秘に満ちた新たな冒険の舞台がどのようなものか見て参りましょう。

第1章の前半は、まだまだ“おとなしい”内容です。山脈や密林、大河や湾、平原に沼沢地など尋常な地形が描かれた地図、地勢や気候に関する一般的な記事といったものが数ページ続きます。ここではオールド・ワールドの住民が持っているラストリアに対する知識の範囲が示されております。

読み物を挟んだ後半から話の雲行きが一気に変わります。
登場人物が知ることのない、ウォーハンマー世界の根幹に関わる重要情報が示されます。

ウォーゲーム版のウォーハンマーに慣れ親しんでいる皆様には周知の話でございましょうが、WFRP第4版では何度か曖昧に示されるに留まっていたため、以下に示すSF的な設定には戸惑う方も出るものと存じます。

『Lustria』で明かされる設定とはすなわちウォーハンマーRPGの舞台となる世界は高度な星間文明を持つ古代種族がテラフォーミングにより作り上げた実験場だったが、恒星間移動に使うワープホールが制御不能になったため遺棄された惑星である。」という内容でございます。この設定が詳しく語られたのはWFRP4版では『Winds of Magic(魔力の風)』以来ですかね。

追加サプリのお約束である年表も第1章に掲載。何と帝国紀元前一万五千年(千五百年ではなく!)から始まります。古代種族が惑星の公転軌道を変え、超大陸を割って現在の大陸と海を作り、ウォーハンマー世界に住まう様々な種族を創造し・・・と創世神話のように壮大な規模の話から始まり、混沌の襲来による文明の崩壊や鼠人間スケイブンとの戦いあるいはダークエルフによる略奪など歴史の転換点となった戦いを差し挟みつつ、現代に至るまでのラストリア大陸の歴史を描き出しています。

第1章で紹介している地勢が尋常なものだったのとは対照的に、第2章では強大な魔力を秘めた多種多様な土地が掲載されています。ルールブック第10章「荘厳なるライクランド」あるいはシナリオフック集『ライクランドに冒険あり!』でも魔法的な力を秘めた土地は幾つか紹介されておりましたが、どのような理由でその土地に魔力が集まっているのかに関する背景、あるいは種明かし、は避けられていました。

しかし、『Lustria』では魔法の力を持つ土地をもはや過度に謎めいたものとして扱ってはいません。キャラクターたちが知り得ない背景まで含めて設定やデータが掲載されています。
以前出版された『Winds of Magic』で魔法についてルール上の扱いが詳細に示されたためでしょう。

第2章で紹介されている名所旧跡は18件。階段ピラミッドや巨大な地上絵、さらには我々の世界の伝説にある「命の泉」に相当する土地も紹介されています。

第3章は入植地スケギー、帝国歴9世紀に北方人ロステリクソンによって築かれた町でございます。エンパイアの都市と比べるのも烏滸がましい小さな居留地ですが、ラストリア探検において重要な拠点となる港町です。
『Salzenmund(ザルツェンムント)』『Sea of Claws(鉤爪湾)』をお読みの方ならご存じの通り、北方人は優れた船乗りとして世界中で知られており、エンパイア人とは大きく異なる文化を持っています。

えーと、つまりその、スケギーにおいてはですね、エンパイアでは禁教とされている暗黒神が公然と信仰されており、信仰と文化の両面において支配的な地位を占めているのです。

統治者アデラ王、ちなみにスケギーでは統治者の称号に性別による違いをもうけてございませんので女性でも称号は「王」でございます、そのアデラ王ご自身も北方の神から祝福を賜っています。つまりルール的にはミュータントだってことです。

スケギーの政治体制や経済、町の地図や主要施設がこの章で示されております。ルールブックやスターターセットで紹介されてきたライクランドの街とは驚くほど異なってございます。異国の風情を是非ご堪能ください。

第3章の後半ではスケギー周辺にある小規模な集落が紹介されています。
スケギー以外の港を探検の拠点にしたいなら止めやしませんが、狂信的な修道院とか幽霊が取り憑いている廃村だとかに比べれば、スケギーはまだマシな方です。

第4章にはスケイブンによって滅ぼされた都市の詳細が描かれています。スケギーから南西に数百マイル、密林の道なき道を踏み越えた先にある神殿都市キュエ=ツァの廃墟でございます。
ケイブンはそれぞれ得意分野を持つ氏族に分かれており、中でも特に有力な四大氏族がございます。スケイブンについては『The Horned Rat COMPANION(角在りし鼠 冒険の手引)』にて詳しく説明されていますので詳細な説明はそちらを読んでくださいませ。

鼠人間スケイブンの歴史においてラストリアは大きな位置を占めております。四大氏族の一角を占める大氏族、疫病の申し子たるペスティレン族はラストリア大陸にて誕生したのです。したがいまして、ペスティレン族の疫病教団にとってラストリアは重要な聖地なのです。

ラストリア東岸には、スケイブンが崇める神“角在りし鼠”に捧げる祭壇と玉座の間がございます。見た目に恐ろしいだけではなく特殊ルールが設定されており、単に近づいただけでもアナタのキャラクターを危険に曝すものとなっております。

次の章もまた恐怖に満ちた内容となります。第5章はラストリア南東に広がる吸血鬼海岸、その名前の通り吸血鬼が住む海岸でございます。この地の支配者の名はルーサー・ハーコン卿。PCゲーム『Total War Warhammer』シリーズに登場する人物ですので、名前をご存じの方もいらっしゃることでしょう。

ルーサー・ハーコン卿はスケギーの成立とほぼ同時期にラストリアに上陸した吸血鬼で自称吸血鬼海岸の海賊王、最高大提督、あるいはラストリア皇帝を名乗ってございます。どうも誇大妄想の傾向が見られます。
記憶の欠落が指摘されているなど、他にも色々と精神的に不安定なところがあるご様子。

自称ラストリア皇帝の居城と支配する都市、領土、腹心についてこの章で描かれています。

第6章はラストリア大陸の南端にあるエルフの要塞「黄昏の城塞」の紹介記事。
城の歴史に続いて概要が示されています。ハイ・エルフ水軍の軍港を抱える島だけではなく、周囲には墓地や薬草園など特定の役割に特化した島々がございます。中には交易をおこなっている港もあるようでございますぞ。
ラストリア周辺のハイ・エルフ居留地に関する記事もあります。エルフの水軍を指揮する将軍や城塞そのものにも隠された設定があり、シナリオフックとして利用できそうです。

地域紹介だけではなく、様々な話題が4章から6章にちりばめられてございます。
たとえば数々のNPCデータ、スケイブンを指揮する疫病教団大僧正やルーサー・ハーコンとその腹心、あるいは彼らの同盟者も載っています。
もちろんエルフ水軍の将軍にもデータが設定されており、彼らが使う軍船の武装に関する追加データも『Sea of Claws』と同じ書式で掲載されています。
さらにはダークエルフ艦隊を指揮する海魔卿ロクヒィル・フェルハートと部下の海賊たちの武装も紹介されています。

第6章には追加呪文もあり。魔法で濃霧を発生させて奇襲を行ったり拠点の場所を隠したりというのは、いかにもエルフやダークエルフが好みそうな戦術です。

第7章ではいよいよリザードマンの都市が紹介されます。ラストリア大陸各地に点在する神殿都市について、統治者や都市の概要に関する記事が続きます。神殿都市の一つを例に取り、都市の構造や施設そして防衛力について紹介するコーナーもあり。

エンパイアの都市と比べると野蛮に見えますが侮ってはいけません。エンパイアに魔法の使い方を伝えたのはエルフたちですが、エルフに魔法を教えたのはリザードマンです。上古の時代にエルフに魔法を手ほどきしたまさにその魔術師が、今なおラストリアの神殿都市を治めているのです。せいぜい百年かそこら魔術をかじった程度の連中では想像もつかない強大な魔力がラストリアには満ちており、神殿都市の統治者はその力を意のままに操ることが出来るのです。

リザードマンは周囲の自然環境を操作する魔術に通じており、熱帯雨林の肉食植物の多くが温血動物のみを攻撃する性質を持っている、つまり変温動物であるリザードマンは安全に森を通過できる(ルール上もそうなっています!)のも、魔法的な影響によることが『Lustria』で示唆されています。

したがって、リザードマンの神殿都市を敵に回すことは、ラストリアの大地そのものを敵に回すことでもあるわけです。

リザードマン種族の詳細に関しては第8章「‘旧き者’の従者たち」に記されてございます。

古代種族‘旧き者’についての記事から始まり、テラフォーミング計画の要となるべく創造された種族“スラン”に関する記事がそれに続きます。
リザードマンの支配階級であるスランは玉座に腰かけた巨大ガエルのごとき外見で、ウォーハンマー世界で最も強大な魔術師です。どれくらいの力を持つかというと、‘旧き者’の命令に従い惑星の公転軌道を変え、大陸と海を分かち、陸地に山脈や湖を築いたのは彼らだという話ですから、まあ設定上は手に負えない強さでございます。

ゲーム上のデータとして実際に強いのかも知りたいですよね!

『Lustria』にはスランのクリーチャーデータが掲載されています。

そうです、データが載っているのです。しかも複数。スランの中では最も力の弱い者でさえ、魔法や知的活動に関する技能の値は100を超えています。最強レベルの者となると、複数の能力値が(技能ではなく能力値が!)100を超えています。
さらに種族特有の特殊ルールを幾つも持っており、特殊ルールだけで見開きページを丸ごと費やすほどです。

それだけではありません、ウォーハンマーRPG第2版の頃は強力すぎるためデータが存在していなかった魔法体系「至高魔術」のリストが『Lustria』に掲載されているのです。

ほとんどの場合、至高魔術を使うことが出来るのはNPCに限られることでしょう。しかし理屈の上ではPCもリストにある呪文を修得することは可能です。
もちろん、ルールの制約上エルフの魔術師に限られますが。

第8章の中盤以降は、スランに仕える様々なリザードマン種族の紹介記事です。鰐に似た外見の戦士階級種族であるザウルス。二足歩行するイモリのような姿のスキンクは労働者階級。スキンクはリザードマンの中では最も多様性に富んでおり、中には神官や偵察兵になる者もいます。ザウルスよりも巨大な体格を誇るクロキシゴールは見た目の通りの怪力で、神殿都市の建材を軽々と運んでいきます。有翼の蛇のごとき姿をしたコアトルリザードマン社会階層の外に位置づけられていますが、‘旧き者’の御使いとして神聖視されているようです。

先に述べた通り、スキンクは他のリザードマンよりも個性に幅があります。戦士としての役割に特化したザウルスや、怪力を活かした単純労働のみを担うクロキシゴールとは違い、スキンクはリザードマンの社会を維持するための様々な役割を果たしています。
神官や書記、職人、農業労働者など様々なスキンクNPCを簡単に創造するためのテンプレートが第8章に載っています。

プレイヤーキャラクターとしてスキンクのキャラクターを使うための情報も掲載されています。
そうです、アナタはリザードマンをキャラクターに選ぶことだってできるのです。

ルールブックに載っている他の種族とはあまりにも異質な存在であるため、リザードマンのキャラクターを運用する際に注意すべき事項についてもこの章にあり。身体機能から文化、信仰や社会構造に関する設定も詳細に述べられています。

オールド・ワールドの住人はラストリアのリザードマンを野蛮で攻撃的な種族と見なす傾向があります。リザードマンの方でもオールド・ワールド人を野蛮な敵対種族と認識しておりますので、まあおあいこですね

第9章はラストリアの生物について。追加モンスターデータ集『Imperial Zoo(帝立動物園)』では、オールド・ワールドの南方に生息する恐竜たちが紹介されておりました。
期待に違わず、『Lustria』には様々な恐竜のモンスターデータが載っています。再掲されているカルノサウルスやステガドンに加え、全身を分厚い鱗で覆っている鎧竜や空を滑空する翼竜、水生の魚竜も新たに掲載。

しかし、ラストリアで恐ろしいのは巨大な怪物ばかりとは限りません。毒性の刃を持つ植物や犠牲者を待ち伏せする肉食性の植物、病原菌を媒介する昆虫や寄生虫などなど。
これらに比べれば、いくさ群れを組んだサベッジオークの方がまだ与し易い相手かもしれません。

ラストリアの熱帯雨林は大小さまざまな危険を取りそろえてアナタのお越しをお待ちしております。

第10章ではラストリアでの冒険に関する様々な記事を紹介。
冒険のきっかけや動機の例、複数の追加キャリア、開拓地の運営ルール、神殿都市の探索表もあれば神殿都市の略奪表もあり。ラストリアにおける新たな冒険外活動のルールもございます。

第11章にはラストリアを舞台にしたシナリオが掲載されています。詳細なデータは省いているものの、新大陸における冒険の雛型として使用できるものが幾つか紹介されています。

ずいぶん長く話し込んでしまいましたが他にも内容は盛り沢山。オークのまじない師が用いる呪文、リザードマンの扱う武器や‘旧き者’が遺した兵器、追加のクリーチャー特徴、新たな疫病ルール、不死鳥王の三種の神器に関する設定などなど、残酷で険難な世界の冒険に新たなメニューが多数追加されました。

爽快な経験をお望みでしたら、滑空飛行装置のデータも載っております。

ぜひお試しください。スリル満点ですよ。

Archives of the Empire volume Ⅲ:ウォーハンマーRPG4版

2023年最初の記事は『Archives of the Empire volume Ⅲ(帝国公文書集 第三巻)』でございます。

過去にCubicle7エンターテイメントのブログで予告されていた出版予定によりますと『vol.Ⅲ』はPDFのみで販売される小編との話でございました。しかしながらその後公開された記事を読みますに、どうやら書籍としても出版される方針に変わったご様子。

『vol.Ⅲ』の総ページ数を数えてみましたところ、前作『vol.Ⅱ』と全く同じ95ページ。なかなかの量でございます。

『Archives of the Empire』シリーズでは毎回イサベラ・フォン・ホルスヴィヒ=シュリスタイン殿下の手紙が掲載されております。

過去に手前がこのブログで書いた内容の繰り返しになりますが、イサベラ様は皇帝カール・フランツⅠ世陛下の妹を僭称して療養所に幽閉された身元不明の(おそらくは貴族の血統に連なる)女性です。

『vol.Ⅱ』にNPCとしての詳細なデータが掲載されています。公式シナリオの記述に依りますと、どうやら本当に皇帝陛下の妹君であるらしいことが示唆されてございます。

その素性はどうあれ、穏やかで思いやりがあり、教養と洞察力を備えたご婦人でございます。一方で、相応の敬意を持って接しなければ大変に激高なさる御方でございますゆえ、面会の際はくれぐれもご注意ください。一応付け加えておきますと、殿下は「恐怖」「狂乱」のクリーチャー特徴をお持ちです。

言い間違いではございません。殿下がお持ちのクリーチャー特徴は「恐れ」ではなく「恐怖」です。無用な刺激を与えぬように願います、狂乱中は手が付けられませんので。

話題が逸れ申した。『Archives of the Empire』シリーズで冒頭に掲げられるイサベラ様の手紙には、毎回思い出話や身の回りの出来事が記されておりまして、その内容が『Archives of the Empire』各巻に記されているコンテンツの予告編となっているのでございます。

『Archives of the Empire volume Ⅲ』の内容はこれまでの2冊より雑多なものです。

最初の章はキャラクターたちによる起業とビジネス運営の為のルール。第2版でも『オールドワールドの武器庫』にキャラクターたちがビジネスを始めるための追加ルールがありました。しかし、2版当時はちょっとした収入を得るものでしかなく、選んだ職業による追加の効果は特に示されていませんでした。

第4版ではより細かく設定されておりまして、キャラクターと同様にビジネスにも四段階の成長ルールがございます。キャラクター個人がキャリアを成長させるためにギルド許可証や商売道具を揃える必要があるのと同様、事業を拡張するためには資金や設備、そして使用人を集める必要がございます。このように、キャラクターの成長とビジネスの成長は似通ったシステムで運用出来るようになっているのです。

掲載されているビジネスは10種類。商店や工房、宿屋といったものから寺院や貴族の領地管理、騎士団や犯罪団の運営まで様々な選択肢がございます。

そして、ここからが肝心な話。ビジネスが成長する毎にキャラクターの地位も高くなります。さらに、各業種それぞれに特殊ルールが設定されており、例えば商店の経営者であれば商品を売却するときの判定が容易になります。あるいは工房を経営しているのであれば対応する技能の判定にボーナスを得ます。事業を育てて使用人を増やし、あるいは経営の規模を拡大することで判定をより容易にすることも出来ます。

独自の追加ルールを持つ事業もございます。犯罪団を率いるのであれば、ギャング同士の縄張り争いを行うことができます。襲撃に備えた隠れ家を用意し、用心棒を雇い、財産を隠匿して犯罪帝国を拡張することが出来るのです。

成り上がりを目指すそこのアナタには貴族の荘園管理のお仕事をお勧めいたします。庭師や別荘の管理人から始まり、やがては地方長官や総督にのし上がり、さらに上を目指して有力貴族と肩を並べることだって出来ます。

ウォーハンマー世界で起業のご予定がないそこのアナタにも有用な記事がございます。信仰する神格の寺院内でのみ聖職者が使用できる特殊な異能や騎士団の構成員が追加で習得できる異能が紹介されています。

NPCが経営する商店や企業の設定もこの章に掲載。

第二章は鎧の構造に関する記事で、鎧に関する追加ルールが幾つか。
追加の鎧も載っております。板金鎧の下に着込む布製の衣服や、布や革に金属片を留めて作ったブリガンディン・アーマーといったもの。

新たに登場した兜にもご注目ください。これまでのような視界を遮るものだけではなく、顔を覆う面頬を上げることが出来る洗練された仕組みの兜もございます。この種の兜であれば、面頬を上げている場合に限り〈知覚〉テストへのペナルティを軽減できるのです。

鎧に関する短い章が終わると、第三章からしばらくオールド・ワールドにおける宗教と信仰に関する内容が続きます。

シグマーやウルリックのようなエンパイアの主要な神格とその教団につきましては、既にルールブック第七章に記載されてございます。

今回『vol.Ⅲ』にて語られますのは、エンパイアの社会で主流にはなっていない諸神格の話題でございます。中でも抜きん出た三柱の神々については、教団の指導者、聖地、主要な祭日と聖典、聖印などの詳細な説明があります。

まずは商業神ハントリッヒ。ティリアの神話に依ると、かつて人間だった頃に軍神ミュルミディアと共に各地を旅した商人だったと伝えられています。また別の伝説に依れば、海神マナンの息子として生まれ、世界中を旅して回ったとのこと。あるいは盗賊の神ラナルドの従兄弟であるとする伝承もございます。詐術を用いて不死を得たご親戚とは対照的に、ハントリッヒ様は卓越した交渉術を以て神の地位に昇ったのだそうで。

ラナルド様のご親族につきましてはオールド・ワールドの神話でも判然としない所が多々ございまして、戦神ウルリックの従兄弟であるという話もございます。お二人は世界中を冒険し、時として仲違いをしつつも様々な試練に立ち向かっていったと聞いております。

北方人の戦士と南方人の盗賊という二人組の冒険譚というのは、どこかで聞いた気がいたしますね。確か鼠人の軍勢と戦う話もあったはずです。今ちょっと作者の名前を失念しておりますが、…そう確かフリッツ某とかそのような名前でした。

話が逸れてしまいました。ハントリッヒ教団はエンパイアにおける構成員は少ないものの、既知世界最大の貿易港マリエンブルグにおきましては強い影響力を持ってございます。当地におきましてはヘンドリクと呼ばれており、銀行制度を築いた伝説上の偉人と信じられております。

太陽神ゾルカンの記事もございます。ゾルカン信仰はエンパイアでは然したる影響力を持っていないものの、ティリア半島のレーマ共和国では支配的な地位を占めています。これまでごくわずかに言及されているのみでしたが、えーと確か短編集『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』の一編に登場していたはずです、今回『Archives of the Empire volume Ⅲ』にて詳細な設定と公式なルールが紹介されています。

古代ティリアの頃から信仰されてきた太陽神であり、激しい憤怒に燃え立つ復讐の神でもございます。秩序の神であり、混沌の暗黒神とは激しく対立しています。その一方でオールド・ワールドにおける影響力は減じ続けております。

その理由と致しましてはやはり、シグマーの魔狩人よりも狂信的と言われる厳格さにあるのでしょう。感情を揺るがす原因となる歌や音楽そして踊り、さらに冗談を厳しく禁止しており「正義の怒りを除き、あらゆる感情を抑制せよ」という戒律がございますので。

ルール上でも厳しい制限が課せられているものの、ゾルカンの《奇跡》は強力かつ攻撃的なもので、ゲーム的な制約に見合ったものでございます。

自由な空気と様々な娯楽で知られる文化の都レーマが、これほど厳格な姿勢を持つ教団の中心地となっているのは意外なことかと思われます。ティリアの社会は常に独裁と反乱の間を揺れ動いており、強力な秩序の神を社会の柱として据えることが求められていた、というのが背景の一つでございましょう。

手前考えますにですな、ウォーハンマー世界の歴史は我々の暮らす世界と鏡写しになっているわけです。するとゾルカン教団の厳格な姿勢はサヴォナローラフィレンツェ神権政治時代を踏まえての設定ではないかと。いずれも美術品や奢侈品を火に投じて焼き尽くす傾向がございますので。

そういえば、オールド・ワールドで最も危険な禁書『天空の予言の書』の著者ネクロドモを火炙りにしたのもティリアのゾルカン教団であったと手前は聞き及んでおります。

地母神リアの記事もございます。都市部においては時代遅れで野蛮と見なされているものの、女神リアへの信仰は農村部で今なお強い影響力を持ってございます。

第五章ではリア教団の組織構造、神話、主要な祭日や聖地、そして他教団との関係が紹介されております。

商業神ハントリッヒ、復讐の神ゾルカン、地母神リアそれぞれの司祭が追加キャリアとして紹介されてございまして、もちろん追加の《奇跡》も掲載されています。

下位神や地域神、祖先崇拝などの記述もあり。先史時代から連綿と続く土着の信仰に関する追加ルールもございます。『Archives of the Empire volume Ⅲ』には遙か古代から続く太古教の司祭を作るための追加ルールも載っているのです。太古の信仰が残るアルビオン島の記事も少々。

古代から続く民間信仰の章があるということで予想が付いているかもしれません、似非魔術師のための追加ルールもございます。都市における似非魔術師の生活についての記事もあり。当然ながら追加呪文も各種掲載。

似非魔術師を強化するものとしては他にも、動物の使い魔に関する記事がございます。以前紹介した追加サプリ『Winds of Magic(魔力の風)』にも使い魔に関する各種ルールはございました。しかし、あちらは魔法大学校に所属する公認魔術師を主な対象としております。

魔法大学校の魔術師たちは、使い魔としてホムンクルスを作り上げることを好み、使い魔として動物を選ぶのを時代遅れと見なすものでございます。
一方で、非公認の魔術師たちは野生動物を使い魔にすることを好む、この話題は『Winds of Magic』で既に語られているとおり。

動物を使い魔にする方法が、『vol.Ⅲ』で明かされました。動物の使い魔専用のキャリアと新異能、素型となる様々な野生動物の追加データもあり

猫や烏の他にも穴熊のデータがございます。『vol.Ⅰ』で追加された新キャリア、ハーフリング文化の誇りである「Badger Rider(穴熊騎兵)」が騎乗する大柄な穴熊に関する選択ルールもあり。

似非魔術師、魔女、公認魔術師それぞれの使い魔に対する態度の違いを説明する記事もございます。

第七章は、帝都アルトドルフの住民に関する選択ルール。出身地方によって獲得できる初期異能や技能に差を設ける選択ルールはこれまでのサプリにもありました。アルトドルフは人口百万人の大都市でございますゆえ、街の地区ごとに初期技能の選択肢が設定されているのです。アルトドルフの北側にある妖術地区、つまり魔法大学校があるあたり、の住民は初期技能で〈知識(魔法)〉を選択することだってできるのです。

強化されるのは非公認魔術師だけではございません。第八章では〈魔風交信〉技能の新たな使い方について掲載されています。帝立魔法大学校で教えている八つの魔法体系それぞれに対応する〈魔風交信〉の追加の効果が示されているのです。

最後の章ではNPC冒険者のパーティーがデータ化されています。老騎士アダルベルト卿とその御一行。何とも・・・まとまりの無い連中と申しますか、言ってしまえば有象無象でございまして、えーと、つまりその、司祭から道化まで非常に幅広い人材を引き連れてらっしゃいます。

ユングフロイト家に忠誠を誓う騎士であったというアダルベルト卿の経歴、『ウォーハンマーRPG スターターセット』で示されているユーベルスライクの現状、『Archives of the Empire volume Ⅲ』冒頭に掲載されたイサベラ様のお手紙の内容を考慮しますに、何とも嫌な予感がいたします。

The Warband of Bayl of many eyes:ウォーハンマーRPG4版

今回の追加設定資料はナーグルですよ皆さん!
ウォーハンマーRPGで主な悪役となる四大暗黒神の一柱、死と疫病の邪神ナーグル。その信奉者を強化する為の追加データが『The Warband of Bayl of many eyes(多目のバイルの戦集団)』に掲載されているのでございます。

四大神のうち三柱につきましては、これまで幾つかの資料で設定が明かされております。

策略と魔術を司る変化の神ティーンチは、『Enemy in Shadows COMPANION(潜みし敵 冒険の手引き)』『Death on the Reik COMPANION(ライク河上に死す 冒険の手引き)』で追加キャリアや追加呪文、さらにシナリオに登場する組織の設定が示されています。

四大神の末弟で欲望と退廃をその支配領域とするスラーネッシュ神については『Power behind the Throne COMPANION(玉座の陰の権力者 冒険の手引き)』に追加呪文と組織の例が載ってございます。残念なことに追加キャリアはございませんが、スラーネッシュの信奉者NPCに付け加える異能や技能が紹介されておりますので、入団をご希望の方はそちらをご利用くださいませ。

戦乱と憤怒を象徴するコーン神の聖地と追加クリーチャー特徴は、つい先頃発表された『Sea of Claws(鉤爪湾)』に示されてございます。『Sea of Claws』には鉤爪湾周辺の地図もございますので、大まかに聖地の場所は把握できるものと存じます。

この度『The Warband of Bayl of many eyes』にて、暗黒神ナーグルを信奉する一団についての設定、及びナーグルの信奉者を強化する為の追加データが明かされたのでございます。

これまでの追加サプリで登場した悪役の組織は、裏から陰謀の糸を引いてエンパイアを転覆させようと試みる秘密結社が中心となっておりました。一方、今回の追加資料で扱われるのは、より直接的かつ単純明快な目的の下に活動する戦士の集団となっております。

さらに、『The Warband of Bayl of many eyes』にはひねりが加えられています。エンパイアの善良な人民が知らず知らずのうちに暗黒神に祈りを捧げている例が、これまでいくつかの資料で示されておりました。一方今回の資料では、邪神の導きだと思われているが実は・・・、という例が示されているのです。

したがいまして、今回の追加資料が悪役のあり方に変化を付ける絶好の教材となることでしょう。手前は確信してございます。

『The Warband of Bayl of many eyes』にはもう一つ重要な内容がございます。クリーチャー強化テンプレートでございます。

これまで出版された最初の強化テンプレート集は、フォレスト・ゴブリンの部族を紹介する『Cluster Eye Tribe(百眼族)』となります。オークやゴブリンあるいは獣人といった・・・つまりその、なんと申しますか、さほど文明的ではない種族のNPCに適用する強化テンプレートでございますね。

例えば「族長」「呪術師」「戦士」などのテンプレートがございます。これらをルールブック記載のクリーチャーに適用すれば、熟練の冒険者たちの好敵手となる手強いNPCをすぐに用意することができるわけです。

二冊目の強化テンプレート集『Night Parade(百鬼夜行)』を用いれば、アンデッドを大いに強化できます。「屍王(Liche Lord)」テンプレートを用いることで、代表的な雑魚モンスターであるゾンビを長編キャンペーンのラスボスに相応しい強さにお引き立てすることさえ可能となるのです。

三冊目となります『The Warband of Bayl of many eyes』では、暗黒神ナーグルに仕え魔道を極めた英雄“多目の”バイル率いる戦集団を例に、ケイオス・ウォリアーが徒党を組んだ略奪団の例が紹介されてございます。さらにNPC強化データとして、「ケイオス・ウォリアー強化テンプレート(Chaos Warrior Advancement Templates)」が掲載されているのでございます。

強化テンプレートを使用していない“素の”ケイオス・ウォリアー、つまりルールブック334ページに掲載されているやつ、でさえ中々に手強い難敵となるものでございます。

強化なしの状態でさえ、シナリオの中ボスかそのレベルの悪役NPCでございますので、そんな輩に強化テンプレートを与えるとどんな恐ろしいことになるか・・・。

勘の良いそこのアナタならもうお察しかと存じます。ケイオス・ウォリアーを最大限強化する場合には「ケイオス・ロード(Chaos Lord)」テンプレートを用います。

左様、2版時代に“混沌の大魔将”と訳されていた最強レベルの悪役に相当するものでございます。手前が計算してみましたところ、能力値と技能そして異能を合わせた経験点換算で15000expを上回るほどの強化となっておりました。

ルールブック記載の一般的なオークを基に『Cluster eye Tribe』の「大族長」テンプレートを用いてオーク大族長を作成し、それぞれの強さを比較検討致しました。
能力値と技能の多くで「ケイオス・ロード」が「大族長」を上回っています。確かに異能の数では若干引けを取っていますが、ケイオス・ウォリアーには強力なクリーチャー特徴「猛者」がございますので有利は揺らぎません。まさしく最強レベルの悪役を作ることが出来るようになったのです。

ケイオス・ロードは近接攻撃の技能が100超で「猛者」の特徴を持っており、〈知識:戦争〉と〈指揮〉技能は歴戦の将軍を凌駕し、さらに戦場にいるだけで味方を強化する《戦場の指揮者》異能までお持ちになります。

さらに異能の数を増やしたいのであれば、『Enemy in Shadows COMPANION』に掲載のティーンチの烙印、『Sea of Claws』のコーンの烙印、そして今回『The Warband of Bayl of many eyes』で登場したナーグルの烙印をご活用ください。これらクリーチャー特徴のいずれかを付与すれば、数々の異能を追加する事が出来るようになりますので。

もう少し繊細な悪役がご入用でしたら、手前は「混沌の大妖術師」テンプレートをお勧め致します。これさえあれば、複数の公式シナリオで黒幕となっているエーグリム・ファン=ホルストマンのような大妖術師を量産できるようになります。

そこのアナタ!ケイオス・ロードと戦ってみたくありませんか?

・・・そうですか。

ではそこのGMのアナタ!シナリオにケイオス・ロードを登場させたいですよね!

追加設定集『The Warband of Bayl of many eyes』があれば、オールド・ワールド全土に災厄をもたらす究極の悪役を、GMであるアナタが作り出すことが出来るようになるのです。

Sea of Claws:ウォーハンマーRPG4版

今回は海の話です。エンパイアの人民にとって海と言えば・・・そう、鉤爪湾でございます。今回ご紹介いたしますウォーハンマーRPG4版の追加サプリメントは『Sea of Claws(鉤爪湾)』であります。

以前ご紹介しました第4版モンスターデータ集『The Imperial Zoo(帝立動物園)』では、エンパイアの東の国境となる最果て山脈、西の隣国ブレトニアとの境となる灰色山脈、南の黒色山脈に生息する怪物各種を紹介しておりました。しかし、エンパイアの北を囲む海の生物種は手つかずとなっておりました。

今回ついにエンパイアの北の境、鉤爪湾に棲むモンスター各種のデータが明らかになったのであります。

『Sea of Claws』で扱う話題はモンスターデータだけではありません。貿易港を始めとする鉤爪湾の沿岸地域に関する記述や船旅に必要な各種ルールを取り揃えてございます。表紙から背表紙まで合わせて全159ページ、『Middenheim: City of the White Wolf(ミドンハイム:白狼の都市)』に匹敵するページ数です。

鉤爪湾に関する話だけでこれほど多くの話題になるのか、お疑いですね?
よろしい、それでは内容を見て参りましょう。

ウォーハンマーRPG第4版の追加ルールブックのこれまでのパターンを踏襲し、最初の章は地域の歴史から解説が始まります。歴史年表もこの章に配されてございます。

数千年前の古代から帝国歴2512年(現在)までの内容が見開きに納められております。ウォーハンマーRPGの世界では暗黒神の治める世界に続く門が北極点にあるため、北極圏にほど近い鉤爪湾の周辺では時折物騒なことが起きるものです。

第二章から第八章まで、鉤爪湾の周辺地域の紹介が続きます。

何故これほど多くの章が必要なのか申し上げますに、エンパイアは三方を山脈に囲まれていることが理由に挙げられまする。船を使う大規模な輸送は北回りのルートを採用するほかに無く、必然的に鉤爪湾を通ることになります。したがいまして鉤爪湾はエンパイアの一大交易路であり、海域には諸国の貿易船が航行し、沿岸には大規模な港湾都市が点在しているのです。このように、鉤爪湾とその周辺には語るに足る見所が数多くあるわけです。

地域紹介の最初に登場しますのが、何と!隣国ブレトニアでございます。遂に第4版で初めてブレトニアの紹介記事が出ました。

ブレトニア北岸最大の(そして特筆すべき唯一の)港町、ル=アンギーレブレトニア海軍について。どうやら、ブレトニアの海軍は勅許を得た私掠船に支えられているようです。

残念ながらブレトニアに関する記事のページ数は少ないものです。しかし、厳しい身分制度封建制を維持しているブレトニア王国の実状、特に海事に関する実状、が示されており興味深く読むことが出来ました。

荒ヶ浜とマリエンブルの記事もあります。オールド・ワールド最大の商業都市マリエンブルグの統治制度についての記述があります。前回紹介した『Salzenmund: City of Salt and Silver(ザルツェンムント:塩と白銀の都市)』ではザルツェンムント大学の話をいたしましたが、『Sea of Claws』によればマリエンブルグにも大学があるのです。

にぎやかな学生街は、いかにも活発な商業都市らしいものです。この大学の元々の設立目的は実践的な航海術と地図作製術を教えることだったのですが、自然哲学、医学、法学、さらにはごく最近になって成立した新たな学問「経済学」も学ぶことが出来るそうでございます。

さて、ここからが肝心。マリエンブルグの大学には「海事魔術学部」が存在するのです。“便宜上”アルトドルフ帝立魔法大学校の権限に服することになっていますが、魔法大学校がアルトドルフ以外にもあるとは驚きでございました。

申し添えておきますに、帝立魔法大学校では扱っていない追加の呪文や、海上での魔法の働きに関する追加ルールなどもございます。

ノードランド及びオストランドの沿岸地域の記事もございますぞ。
ノードランド最大の港町ザルツェンムントは既に『Salzenmund: City of Salt and Silver』で解説されております。今回はその他の港町や沿岸の防衛施設について扱います。帝国海軍の歴史や伝統、NPC紹介、都市の紹介もあれば、酒場の紹介、“船の墓場”などの地域に関して。これらの紹介記事と併せてシナリオフックが並んでおります。

鉤爪湾北岸のノーシャと呼ばれる地域の記事も各種ございます。中でも恐ろしいのはトロール。数々の怪物が跋扈する荒野ですが、人跡未踏の地というわけではございません。遊牧民族が生活している地域もございますし、闘争と殺戮の神コーンに捧げられた祭壇やトロールの王が支配する地域などがございます。まあ、恐ろしい土地であることに変わりはありませんな。

ルールブックの一般的なトロールでさえ十分手強いモンスターですが、トロール王ともなると知力、耐久値いずれも通常のトロールの数倍を超える能力値となっております。さらにマジックアイテムを帯び、おまけに特殊ルールまで持っています。まさに怪物の王に相応しいものでしょう。


『Sea of Claws』があればノーシャ人キャラクターを作ることだって出来ます。基本的な能力値はライクランド人と変わりませんが、初期技能、初期異能、初期キャリアに違いがあります。

ノーシャは統一国家ではなく、幾つもの部族が群雄割拠している土地であります。そしてルール的にも属する民族によって初期技能や初期異能に若干の違いが設けられているのです。

ノーシャ人のキャラクターを創造できるようになったことからご推察できますとおり、鉤爪湾の北方に暮らす住民の皆が皆、暗黒神に帰依する略奪者というわけではございません。
「Sea of Claws」に掲載されている内容を確認いたしましょう。
騎馬民族にして恐るべき海賊サゥル族
熟練の船乗りにして恐るべき海賊スケィリング族
交易商人かつ探検家そして恐るべき海賊ビョルンリング族
といった具合です。ご納得いただけましたでしょうか。

キャラクター創造に関して、技能と所持品に関するルールの読み換えが記載されています。ルール上一部の職業では成長時に「黒色火薬武器」「板金鎧」などのアイテムが必要になることがあります。北方の荒野では入手困難なアイテムや修得困難な技能がある場合、データをどのように読み替えて適用するか指針が示されています。

これまでルール通り運用すると蛮族の騎兵が何故か揃いも揃ってエンパイアの兵士より先進的な武装をすることになりましたが、今回の選択ルールによる装備と技能の読み換えを適用すればそのような事態は起こらなくなりました。

さあこれで、北方人のキャラクターを作成する準備が出そろいました。鉤爪湾以北の住民は、エンパイアの住民たちとは大分異なる価値観を持っておりますので、キャラクター創造の際は第Ⅶ章をよく読み込んでおくべきでしょう。

GMの皆様にも一つ耳寄りな情報がございます。新クリーチャー特徴《コーンの烙印》も掲載されています。『Enemy in Shadows COMPANION(影に潜みし敵:冒険の手引き)』で紹介されたティーンチの烙印》に続く、暗黒神の信奉者を強化する異能です。

ノーシャにおけるドワーフの領土について紹介する章もございます。
極北に暮らすドワーフについては第二版時代にも記述がありましたが、当時はごくごくわずかに言及されるのみでした。この度の『Sea of Claws』では彼らの文化について詳細が描き出されています。どうやら鉤爪湾以北のドワーフたちは、最果て山脈のカラザ=カラク至高王の権威を認めていないご様子。精神的な支柱だけではなく用いる技術面でも違いが示されています。設定だけではなく、キャラクター創造の際のデータにおいても若干の差異が設けられております。


『Sea of Claws』には複数の新キャリアが掲載されています。これまでの職業に若干の変化を付けたバリエーション程度のものもあれば、「砂浜漁り(Beachcomber)」「海軍士官(Officer)」のような新たな職業もあり。
海軍士官のキャリアの頂点「提督(Admiral)」まで上り詰めれば、有力貴族に匹敵するほどの影響力を持つことが出来ます。
砂浜漁りは地位こそ低いものの、ごくまれに高価な香水の材料(鯨の胆石)を拾い上げることがあるそうです。つまり、裕福になるチャンスがあるってことです。海岸で見つけた漂着物が冒険のきっかけになるシナリオなんてのも良いでしょう。
鉤爪湾の北側では暗黒神が公然と崇拝されているわけですから、何らかのきっかけでエンパイアの海岸に騒動の元になるアーティファクトが流れ着いても不思議ではないでしょう。

新キャリアの異能や技能の一覧を見ていると、時折記述の重複が見られます。誤記と思われますので、今後の更新が待たれる次第也。

「マナンの船乗り司祭(Sailor-Priest of Mannan)」もキャリアとして設定されております。

マナン教団の詳細を明かす章もあります。
『Power Behind the Throne: COMPANION(玉座の影の権力者:冒険の手引き)』では戦神ウルリック、『Up in Arms(武器を執れ!)』では軍神ミュルミディアの教団の設定を紹介していました。『Sea of Claws』もこれまでの例と同様に、司祭の新キャリア、教団の組織構造、追加の《奇跡》いわゆる神聖呪文、が紹介されています。

第ⅹ章の記述を読みますに、どうやらマナン教団は徒弟制度のような形で聖職者を育てているようだと思える節があります。

海神マナンと対立する海の神格、荒ぶる海の神ストロムフェルズに関する記事も章一つを割いて掲載されています。ストロムフェルズの司祭も新キャリアとして設定が明かされました、追加の《奇跡》、教団の構造、聖地などについての記事もあり。いずれも、これまでルールブックで明かされてこなかった内容です。

後半は数値的なデータの割合がぐっと増えまして、船旅に必要な各種ルールがずらりと並んでおります。船の建造から航海に伴う各種のアクシデント船に搭載する大砲船体の改造貿易の拠点となる港の一覧表海の天候に至るまで内容は多岐に渡ります。

既に『Death on the Reik COMPANION(ライク河上の死 冒険の手引き)』で明かされていた川船のルールと一部重複もございます。しかし、追加された内容があり、単なる再掲でなくルールの扱いが明確になった箇所もあり、といった案配でございますので、既に『Death on the Reik COMPANION』をお持ちの方も購入して損はないものと存じます。

なにより海上船舶は川船より大型で重武装しています。お読みになった方は軍用ガレー船やロングシップ(いわゆるヴァイキング船)をシナリオに登場させたくなることでしょう。


漸く最初の話題に戻りまして、鉤爪湾に棲むモンスターについてでございます。最後の章でモンスターデータが掲載されています。巨大海洋生物が載っている一方で、トリトンや海の精霊のように魔法的な存在も載っています。耐久値三桁超えも珍しくありません。

海に関する大物NPCも載っています。ウォーゲーム版のウォーハンマーに登場していた大海賊やスケイブン水軍の総司令官など。何とこのお方はスケイブン社会の頂点に君臨する十三人評議会の一員であります。

さて、ウォーハンマーRPGには壮大な冒険は似合わないといったイメージを持つ方も多いかと思います。

確かに、キャラクターたちの職業名がネズミ捕りだの行商人だのといった地に足の着いたものが多いことからそう思えるかもしれません。

しかし第四版は、第二版よりもヒロイックというかエピックというか、そのような冒険を指向しているようにも思えるのです。

何故かと申しますに、過去の版ではキャラクターが入手する事は出来ないとされていた強力なアイテム、例えば大砲など、の入手方法がルール上整備されていることが理由の一つであります。

あるいは、歴史年表に名前が載るような大物NPCのデータが数多く設定されており、彼らをシナリオに登場させ易くなっている、場合によっては直接対決することも出来るようになっていることも挙げられます。

そしてモンスターデータに目を移せば、城や軍艦をも見下ろす巨大モンスターが過去の版より明らかに多く設定されているのです。つまり、並大抵の手段では仕留める事が出来ないような怪物を相手とする冒険が想定されているわけです。

というわけで第4版のキャラクターは英雄候補であるという事に御納得頂けましたでしょうか?

 

それでは英雄候補のそこのアナタ!
英雄らしく新大陸ラストリアへ冒険の旅に出てみようとは思いませんか?

Salzenmund: City of salt and silver:ウォーハンマーRPG4版

地理的にも歴史的にも周辺地域とは異なる背景を持ち、北方貿易と銀山経営で繁栄する港町、紛争の種に事欠かない北部領邦の中心都市ザルツェンムントにようこそ。海から襲来する北方人、坑道からわき出るゴブリン、森の奥深くから捲土重来の機会を伺う古の妖術師まで、数多の危難が貴方をお待ちしております!

ウォーハンマーRPG4版で三冊目となる都市ガイドブック『Salzenmund: City of salt and silver(ザルツェンムント:塩と白銀の街)』が発売されております。ザルツェンムントはミドンハイムやアルトドルフよりも規模が小さな都市となりますので、何故単独のサプリが作られたのか疑問に思う方もいらっしゃることでしょう。

ザルツェンムントは地理的にも歴史的にも極めて特異な位置を占める都市であり、紹介する価値が十分にあるのでございます。本日はその話を致しましょう。

ザルツェンムントはノードランドの州都でございます。そもそもノードランドが独立した州としての地位を取り戻したのはごく最近のこと。これまで出版されてきた『Enemy in Shadows COMPANION(影に潜みし敵 冒険の手引き)』そして『Archives of the Empire vol.I(帝国公文書集 第一巻)』では、帝国歴2512年時点における帝国諸領邦の現状が要約されております。その記事では、ノードランドはミドンハイム選帝侯の領地と記載されておりました。

しかし『Archives of the Empire vol.I』で予告されていたとおり、長編キャンペーン『Enemy Within(内なる敵)』を経てエンパイアの構造は激変することとなります。何人かの選帝候は地位を追われ、代替わりしました。

『Salzenmund: City of salt and silver』によれば、ノードランドはミドンハイムから独立、選帝候を戴く州となっています。ということは、『Empire in Ruins COMPANION(エンパイア荒廃す 冒険の手引き)』で示された複数の展開のうち、「An Empire Reborn... Sort of(帝国再興せり・・・、いちおう)」の記述が公式の歴史になるわけですな。

ノードランドの統治者は帝国北方元帥セオドリック・ガウサー伯ウォーハンマーFRP2版は帝国歴2522年を舞台にしておりましたので、当時の設定資料『シグマーの継承者』をお持ちの方はお名前をご存じかと思います。

ザルツェンムントの人口は一万五千人で特産品は銀と木材。守銭帝ボリスの時代にマリエンブルグ市がエンパイアから独立を「買って」以降、ザルツェンムントは外海につながる港を持った帝国で唯一の大都市となっています。

これまで追加資料で詳細な設定が示された都市と比較してみましょう。
『Death on the Reik COMPANION(ライク河上の死 冒険の手引き)』によると、ユーベルスライクの人口が七千五百人、ベーゲンハーフェンは一万五百人、『Power behind the Throne COMPANION(玉座の影の権力 冒険の手引き)』によるとミドンハイムの人口は四万人。ザルツェンムントが決して小さな都市でないことはお分かり頂けるものと思います。
ちなみにアルトドルフは百万人都市だそうです。

『Salzenmund: City of salt and silver』の構成は、これまでのシティガイドと同様でございます。最初の章は歴史と年表、続いて統治者と政治体制、軍事と外交、ザルツェンムント都市案内、周辺地域の案内、ノードランドを脅かす敵たち、といった順番。後半にはノードランド特有のモンスターや産業を扱うためのルールも掲載されてございます。

海につながる港湾都市であること、領内に銀山が数多く存在すること、領土の多くが森に覆われていること、などを原因とするノードランド特有の危険も示してございます。

一見すると真新しさがないように思えるかもしれません。しかし、『Salzenmund: City of salt and silver』には、エンパイアを揺るがしかねない北部地域の秘密が幾つも記されてございます。一見しただけでは単なる地域紹介のように見えるさりげない記述の中に、ザルツェンムントとノードランドの重大な秘密が記されているのでございます。

これまで出版されてきた追加資料と読み合わせることで、エンパイアの根幹に、あるいはオールド・ワールド全体に関わる恐ろしい秘密が幾つも隠されていることが解る作りとなっているのです。

ノードランドの歴史を扱う最初の章でさえ強力なパンチが飛んできます。初代皇帝シグマーにより諸部族の領土が統一され、天下分け目の戦いとなった黒火峠の戦いに集まった十二人の族長が帝国諸州の最初の統治者である。一般的にエンパイアの歴史はそのように認識されてございます。

しかし、ノードランドは六世紀までエンパイアの領土ではなかったのです。確かに、現在ノードランドと呼ばれている地域からシグマーの元に集った部族はございました。しかしその後も帝国北部には“白銀王”と呼ばれる人物が統治する王国が存在し続けていたのです。

“白銀王”の人物像は歴史の霧の中で忘れ去られており、現在ではザルツェンムントの住民でさえその正体を知るものはいません。

“白銀王”の正体が公になったならば、エンパイアにおける争いの火種となることでしょう。そして『Salzenmund: City of salt and silver』には正体が記されています。つまり、お読みになったアナタはエンパイアを揺るがす秘密を知ってしまうことができるのです。

あるいは、ノードランドの魔術師君候時代についての話題もございます。帝国全土で魔術の行使が違法とされていた時代に、何と魔術師がノードランド選帝候の座に就いていた時代があったのです。ザルツェンムントには代々の(!)魔術師選帝候が残した遺産が今なお残されているのです。

第一章には他にも帝国北部領域の歴史的事件が記されてございます。ザルツェンムントは決して帝国の中心ではございませんが、三皇帝時代、スケイブン戦争、混沌大戦における歴史の転換点に立ち会った都市なのです。

同じく第一章に、統治者と政治体制についての記事がございます。選帝候セオドリック・ガウサー伯のデータが掲載されておりまして、他にもノードランド大男爵の地位を追われた貴族(トッドブリンガー伯の縁戚筋に当たります)や、ノードランドの守護者である北極星騎士団総長など、政治・軍事・学問の中心人物が紹介されています。

これまでの資料でデータが明らかになった選帝候はエマニュエル・フォン=リーベウィッツ伯爵夫人、ボリス・トッドブリンガー伯爵、セオドリック・ガウサー伯爵の三人。『Empire in Ruins(エンパイア荒廃す)』に登場した時点では選帝候ではなかったものの、マリウス・レイトドルフ伯も含めると四人となります。選帝候ではございませんが、選帝会議での投票権をお持ちのお歴々としては、シグマー教団総大主教大主教そしてウルリック会大僧正も『Empire in Ruins』でデータ化されています。

第二章からはザルツェンムント市とその周囲の紹介。

エンパイアの主神であるシグマーを奉る寺院を始め、主要な宗派の寺院が一通り市内にございます。寺院の規模も都市の人口に見合ったものです、何せ州都ですので。

文化的な特徴を申し添えておきますと、北部領邦ではウルリック信仰が盛んであるため、ザルツェンムントのウルリック神殿はミドンハイム大神殿に次ぐ規模で、エンパイアにおいて他に例のない建築様式で築かれてございます。

港湾都市であるザルツェンムントには海神マナンの大聖堂がございます。壮麗なのは外観だけではありません、内部も荘厳な作りとなっております。この建物の見所は数多くありますが、とりわけ有名なものは天井に飾られている大海獣の骨でございましょう。

この街には大学だってあります。帝国の中心から離れておりますので、遺憾ながらアルトドルフやナルンの大学のような学問的権威は持ち合わせておりません。しかしながら、ザルツェンムント大学中産階級からの資金提供により設立されたことは特筆に値します。貴族のための施設ではなく、高等教育を求める市民自らが建てた学校であることが、街の豊かさを物語っています。

大天球儀を戴く六角形の塔は魔法大学校の出先機関でございます。ガイドブックの表紙にも描かれておりますその外観から皆様ご想像の通り、天空の学府の魔術師たちが研究施設として用いております。

大病院もございます。ザルツェンムント療養所では、慈悲の女神シャリアと地母神リアの教団による医療活動を三つの医師ギルドが支援しております。ザルツェンムントの偉人、名医フェストゥス博士がこの病院の創設者であることは広く知られております。

フェストゥス博士はある時謎の失踪を遂げ、後にティネア同胞団を設立しています。ティネア同胞団についてはスターターセットの『ユーベルスライク・ガイドブック』にも載っておりますので、ご存じの方もいらっしゃることでしょう。

この街の見所は大規模な建築ばかりではございません。ザルツェンムントはエンパイアにとって重要な貿易港であり、北方との交易の拠点であります。そのため北方の文化・・・我々の世界で言うヴァイキングの文化に似たもの、の影響がそこかしこに見受けられます。

さて、ウォーハンマー世界の設定では、北極点に何があるでしょう?左様、禍つ神々の領域に繋がる門でございます。北方の荒れ地から襲来する略奪者たちは、エンパイアでは禁教となっている混沌四大神を公然と信仰しているわけでして、ノードランドが北方人との交易で文化的な影響を受けてもいるということは、その、つまり・・・。

ザルツェンムントの市民生活に溶け込んでいる風習の中には、混沌四大神に由来している事物もあるのです。気付かないまま、混沌神に祈りを捧げたり、あるいは願掛けをするような例が『Salzenmund: City of salt and silver』で示されています。

考えてもみてください、PCの前に死の運命を告げる大烏が現れたとして、それが冥界の神モールの使いなのか、疫病と死の神ニーグレンが送り込んだ従僕か、それとも運命の操作者ティーンチの眷属か、見分ける方法があるでしょうか?

見分ける方法が無いだけならまだマシです。実は全て同一のもので、北方人と南方人で同じ現象に違う名前を付けているだけなのだとしたら・・・。エンパイアの臣民にとって考えたくもない話だと思いませんか?

ザルツェンムントの路地裏でお祈りしたときや、珍しい木彫り細工あるいは装飾品を手に入れたときは、くれぐれもご注意くださいませ。いつGMが「じゃあ、《堕落(中規模)》でロールしてみて!」と言い出すか知れたものではございませんので。

城壁の外にある遺構や周辺地域の紹介、ノードランド各地の河川に森林、居住地域の記事もあります。

中でも、ノードランドの地域神に関する記事は衝撃的でした。もしこの記事の通りだとすると、エンパイアの他地域の神々も実は!ということがあるかも知れません。

ルールブックの記述の時点ですでに、帝国非公認の魔法使い「似非魔術師」は魔術師というよりむしろ精霊との交渉を司る神官なのではないかと思わせる記述がありました。考えてみますに、ウォーハンマー世界では人間以外のほとんどの種族は魔術師が司祭を兼ねている、というのも不思議な設定です。仮に、ライク河の地域神“ライク爺さん”やその他の地域神の正体がノードランドの地域神と同じだとすると・・・、

話題が逸れてしまいました。
精霊と言えばですね、ローレローンの森に暮らす小妖精のデータが載っているのですよ。ウォーゲーム版のウォーハンマーでは“小妖精”と訳されていましたが、森に入り込んだ者の手足を切りつけたり、鬼火を見せて危険な場所に誘い込んだり、まあ妖怪のようなものです。いずれも非力ですが、ローレローンの森の意志そのものが形を成したものであり、敵に回すと恐ろしい相手です。ローレローンの森を敵に回すということは、怒れる森エルフの集団を相手にすることでもあります。

森の精霊について詳細が設定されたということは、似非魔術師の技能〈知識:精霊〉が役に立つときが遂にやってきたのです。小妖精の力を借りるためのルールもございます。アナタのシナリオの味付けとして、ローレローンの妖精を登場させてみてはいかがでしょう。

モンスターデータとしては他にも、ノードランドの鉱山に巣くうゴブリン部族“ぎらぎら月族”が紹介されています。孤立した環境で暮らすゴブリンの群れが独自の奇妙な世界観を持つようになる例は、これまでのシナリオ集にも示されてございました。“ぎらぎら月族”の世界観や特有の戦術についての記事もございます。

族長グリミックは魔法の杖“バクハツ棒”を手に入れたことで今の地位に就いたという背景の持ち主です。この魔法の杖にも意外な秘密が隠されています。

ノードランドの産業について2つの章が設けられています。一方は鉱山経営、もう一方が密輸業です。

鉱山についての挿し絵が見事なもので、ふいごを使って坑道に空気を送り込み、水車と梃子を組み合わせてあふれる水を地上に排出する様子が描かれています。版画風のこの絵、実際の中世の鉱山に関する書物が基になっているのではないかと思うくらい現実感があります。

この章に登場する鉱山経営者は異色の経歴ですが、理に適った設定です。鉱山経営に関する各種ルールは、採鉱機材の価格や維持費、鉱山労働者の雇用から坑道内の事故に至るまで、至れり尽くせりの内容です。

もう一方の経営ルールが密輸業について。『Death on the Reik COMPANION』で河川交易のルールが紹介されましたが、今回は密輸に特化した内容です。新キャリアとして密輸商人のバリエーションが一つ紹介されています。ザルツェンムントはライク河の流域にはないため、他の大都市まで荷物を運ぶには彼らの協力が必要となることでしょう。

この他にも、エンパイア北部を千年以上に渡り脅かしている大死霊術師NPCデータ有り!)や、ザルツェンムント城の秘密、ノードランドの妖精と森エルフの共生関係などの記事もあり、読み応え十分です。

Winds of Magic』や『Enemy Whithin』キャンペーンと併せて読めば、ウォーハンマー世界に関する理解がさらに深まることでしょう。

プレイヤーにとってはともかく、キャラクターにとっては知りたくもなかったようなことも、多数載っております。

ザルツェンムントの北、鉤爪湾については別途設定資料が出版されるそうです。出航準備が整うまでの間、ザルツェンムントに逗留してはいかがでしょう。

なお、ご起床時には悪夢の効果に抵抗する判定を行っていただきます。