無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

親と子と宇宙人もの①『クワイエット・プレイス』

図らずも同じ展開・・・とは言わないまでもまあ、構造に類似した箇所のある映画を二本立て続けに拝見いたしました。『クワイエット・プレイス』と『ザ・プレデター』であります。一体全体どこが類似しているのか、それは今回のお題の通りであります。

もそっと具体的に申しましょう。“何らかのハンディキャップを抱えた子供が寡黙な父親に向かって、期待に沿えない子でごめんなさいとか謝っていると、そんなことはないさ世界で一番素敵な家族だと思っているよ、とか何とかまあ大体そういった事を父親が切り返します。そうこうしている親子の前に凶悪な宇宙人さんが現れてフンガー!と暴れ出す。”乱暴にまとめましたが大体そういったジャンルの映画です。

こういった映画では大抵もう一つお約束がありまして、観るまでもなく皆様もう予想の通りかと存じます。そう、“宇宙人さんには意外な弱点が!”という例の展開です。

H・G・ウェルズ氏の『宇宙戦争』の昔から、お約束として宇宙人さんには意外な弱点があります。弱点は些細なものであったり、一番弱い登場人物の行動が切っ掛けで発見されたりする訳です。具体例を挙げてみろと?そうですね、先ほど申し上げた『宇宙戦争』では微生物ですし、光に弱いとか、寒いところでは活動出来ないだとか、ばーちゃんの聞いてる音楽が弱点ってのもありましたし、水が弱点という輩もいました。

さてこの『クワイエット・プレイス』、「音を立てたら、即死!」という基本設定と登場人物の家族構成以上の情報が公開前にはあまり出ていませんでした。後は、ネクストレベルのホラーがどうのこうの、新感覚の体験がうんたらかんたら、ありがちなコピーの繰り返しでどうにも掴み所がない。いずれも共通しているのは「緊張感がすごい(音を立ててはいけないから)」という宣伝文句でした。

試写会で箝口令でも出ているのか、あるいは基本設定以上の事が起きないというワン・アイデアものにありがちな欠点でも抱えているためか、手前には測り知れません。ですがむしろ、具体的な内容について触れた宣伝が行われていないことから却って、有る映画を手前は思い出したのです。

シャマラン監督の『サイン』、この映画も宣伝に当たっては、内容に触れた紹介が禁止されていたという噂がございます。ある事件が切っ掛けで壊れかけた家庭、何らかのハンディキャップを抱えた子供(『サイン』の場合は潔癖性)、終末の近づいた世界、子供の行動で判明する宇宙人さんの意外な弱点、そして・・・“それで倒せるなら苦労しねえよ!”な展開。

ネクストレベルのホラーがどうの、新感覚の体験がうんたら、そういったキャッチコピーがありましたがこの映画はそこまで高尚なものではないとお見受けいたしました。(そもそも、キャッチコピーを真に受ける不用心な方はまずもって居ないとは存じておりますが。)

要するにこの映画は、『トレマーズ』を『サイン』の演出で撮ったらどうなるか大喜利なのです。『トレマーズ』の方が物語に緩急が効いていますし、展開の納得出来なさでは『サイン』に軍配が上がります。音を出さないことで緊張感を醸し出すというアイデアが『クワイエット・プレイス』の新味です。

あるいは、光を音に置き換えた『ライト/オフ』とでも申しましょうか。暗い所からいきなり出てきてバーン!ギャー!、これを置き換えて、無音の所でいきなり音を立ててバーン!ギャー!に変換すれば、まあ大体そういった感じになります。

宣伝で使われているコピーによると、「アカデミー賞監督ギレルモ・デル=トロが絶賛」とありますが、それはそうでしょう。デル=トロ監督がハリウッドに乗り込んだときの映画が『ミミック』。低予算ジャンル映画で“モンスターには意外な弱点が!”という例の展開のやつなのですから、思い入れのあるジャンルを追う後輩が現れたら誉めますわ。
「ホラー小説の巨匠スティーブン・キングが絶賛」ともあります。そりゃあそうでしょう、あの人低予算ホラーの好事家ですから、そりゃあ自分の大好物出されたら誉めますわ。『地獄のデビルトラック』『マングラー』『バトルランナー』の人ですからねえ。

新感覚ホラーか?と問われれば、手前は力強くNo!と答えます。むしろ古くからあるジャンル映画の定石に則っている映画だからであります。

では、昔のジャンル映画を知らなければ楽しめないか?と問われれば、やはり手前はNo!と答えます。ワン・アイデアもののジャンル映画は、過去の作品を知らなければそれはそれで新しいものとして楽しめるでしょう。