無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

メキシコ革命もの西部劇『ハン・ソロ:スター・ウォーズ・ストーリー』

スター・ウォーズ』シリーズの映画で、必ずどこかに登場しているシリーズ皆勤賞のコンビ、C-3POとR2-D2がどこに映っているか、手前初見では見つけられませんでした。しかしながら、一度ストーリーを確認できれば、物語の時系列から推測するに彼らが居てもおかしくない場所を、劇中一カ所に絞り込むことが出来ます。そう、惑星コレリアの宇宙港です。

搭乗ゲートを斜め上から俯瞰した場面で、青いラインの入った円筒形のドロイドと金色のヒューマノイドタイプがこちら側に向かって歩いている姿が一瞬画面左側に映っていました。彼らと見て間違いないでしょう。とはいえ、R2アストロメクは、銀河各地でありふれたドロイドですし、金色のプロトコルドロイドもそう珍しい型でもありません。

他人の空似、・・・じゃなくて他ドロイドの空似という可能性も排除できないので、確証を得るためにはさらにもう一回見ないといけませんかねって、いや失敬失敬www拙者これではまるでオタクみたいwwwコポォ

冗談はさておき、ジャンゴの話です、ただしジャンゴ・フェットではない方、棺桶を引きずって歩いているジャンゴの話です。『ハン・ソロ』は西部劇です。しかも、西部劇の中でもかなり狭くジャンルを特定できます。アメリカ合衆国が舞台ではないやつ、“メキシコ革命もの”のスター・ウォーズ版です。ミレニアム=ファルコンをガトリングガンに置き換えれば、ほぼそのままイタリア産ウェスタンになる映画です。

試しにあらすじを西部劇に置き換えてみましょう。“軍の武器庫から武器弾薬を盗み出し、列車強盗を企てる無法者一味。アウトローにあこがれ一味に加わった脱走兵が、ギャングとの取引やギャンブラーとのポーカー対決、金鉱の襲撃といった経験を積みつつ、やがてリーダーと袂を分かち独立するための試練に直面する”大体こういった感じになります。

師匠から拳銃を受け取る若造とか、泥沼で格闘とか、マカロニウェスタンでよく有る場面がちりばめられています。メキシコ革命もののお約束「我々は山賊ではない、革命軍だ!」も有りましたね。

これまで『スター・ウォーズ』のスピンオフでは、CGアニメ『クローン・ウォーズ』のシーズン2『ブレイン・インベーダー』でゾンビ映画を再現し、『コルサント炎上』で『ゴジラ』を引用し、『七人の傭兵』でスター・ウォーズ版『七人の侍』を提示してきました。とうとう映画で大ネタ「西部劇」に自己言及してきたようです。

そう、『スター・ウォーズ』で西部劇を再現するのはかなりの大ネタと言えるのです。『スター・ウォーズ』が、ジョーゼフ・キャンベル氏の理論に基づいて、神話の構造を模した物語として作られた、という話は以前にも申し上げました。さて、神話を創造するに際しては、その文化圏において共通する背景、共有できる物語の枠組みが必要です。『スター・ウォーズ』においては、大衆にとっての娯楽であるパルプSF、そして西部劇が共通背景としての役割の多くを担っています。西部劇の要素が、アメリカで作られた新作神話の成立を可能にしているのです。

スター・ウォーズ』の構造において神話に題材を取った部分、親探しと親殺しのモチーフ、はルーク・スカイウォーカーに役割が割り振られています。開拓地の農家で育った少年が冒険を志し、騎士から教えを受けて成長し、やがて自分のルーツが王家にあると知る。このようにヨーロッパ的な貴種流離譚の一つの典型となっています。

一方、ハン・ソロは、西部劇の要素が強いキャラクターです。ルークが神話担当だとすれば、ハン・ソロは西部劇担当と言えるでしょう。そもそも、キャラクターデザインの原型として西部劇の無法者を取り入れていることは周知の事実です。加えて、性格に『風と共に去りぬ』のレット・バトラーを若干取り入れているそうで。さらに言えば、『EPⅥ ジェダイの帰還』までのメインキャラクターの中では彼とチューバッカだけが、才能の背景に血筋という理由もフォース感知能力も持っていない、純粋な成り上がり者なのであります。

手前先程、西部劇に登場する伝説の賞金稼ぎジャンゴに例えましたが、どちらかと言えばフランコ・ネロ演じるジャンゴではなく、ジュリアーノ・ジェンマの方が近いかも知れません。さらに申し上げますと、ジェンマの映画で今回の『ハン・ソロ』に一番近いのは『怒りの荒野』でしょう。物語の最初から最強キャラクターなのではなく、最初は駆け出しの若者である点、町の住民から軽んじられており、無法者を目指して弟子入りする点、師匠と決別するに当たって師匠の教えを本人に切り返して見せる点、こういった所が似通っています。服装もロングコートではなく、ジャケット又はベストといったハンのスタイルは、ジャンゴよりもジェンマに近い気がします。

おまけに、師匠から弟子への教えも共通しています。『怒りの荒野』では、リー・ヴァン・クリーフ演じるガンマンが、ジェンマに10の教訓を述べていきます。この十箇条の2番目「レッスンその2:決して他人を信用するな」。ハンの師匠トバイアス・ベケットがソロに伝えた教訓「誰も信用するな、そうすれば生き延びられる」に重なります。

ベケット師匠の教えを数えてみると、少なくとも劇中5つございます。
「誰も信用するな、そうすれば生き延びられる」
「問題が見えないのは、見ようとしないからだ」
「常に2手先、3手先を読め。人間の動きは読みやすい」
「考え事をするときは、自分以外に銃を持たせるな」
・・・5つ目はこれまでで一番大切なこと、とベケット師匠が前置きしておりましたので、是非劇場でご確認くださいませ。

それにしてもつくづく、ハン・ソロは人生の師を間違えたと思うのです。
多額の借金を抱えており、大仕事で一発逆転狙いを繰り返した挙げ句、借金が雪だるま式に増えてゆく、昔の手柄が一人歩きして伝説の無法者になってしまった(トバイアス・ベケット「オーラ・シングを殺した男」、ハン・ソロ「ケッセルランを12パーセクで飛んだパイロット」)、後のハン・ソロのダメ人間としての側面は、いずれも師匠譲りなのではないかという疑念が、この映画で芽生えました。

この映画でのハン・ソロは成長途中で、人格的に未完成であり、後の『スター・ウォーズ EPⅣ 新たなる希望』以降のキャラクターの性格と直接結びつかない面があっても不思議ではないのですが、驚いた事があるのです。どちらかというと、エピソードⅣ・Ⅴ・Ⅵよりも、『EPⅦ フォースの覚醒』に登場したハン・ソロにより性格が近いのです。

走り屋としての才覚ではなく、ステータスをペテン師に特化していて、言い逃れと話題を逸らすことで場を乗り切ろうとして地雷を踏む、という。・・・もしかして腕利きの密輸業者という評判はハン・ソロの能力に由来するものではなく、ミレニアム=ファルコン号の性能が優れているだけなんじゃね、という疑惑。

手前が以前聞いた設定では、“帝国軍のパイロット候補だったが、虐待されている奴隷のウーキーを助けて除隊になった”ということでしたが、この映画の中で描かれている客観的な状況は、何と申しますかその、違うようです。しかし映画を見終わると、このハン・ソロの主観なら、このくらい話を盛ってもおかしくない、と納得できる絶妙なさじ加減。

先に述べてしまいましたが結論をもう一度、“メキシコ革命もの西部劇で、主人公がガトリングガン(=ファルコン号)を手に入れて伝説の無法者になるまでの物語(主演:ジュリアーノ・ジェンマ)を『スター・ウォーズ』の世界に落とし込んだ映画”でした。

考えてみますに、ハンとチューイはこれからタトゥイーンに向かうわけです。『反乱者たち』シリーズを観ている方ならご存じでしょうが、クリムゾン・ドーンの首領もタトゥイーンに用事があるわけです。ということはきっと、次回作ではハット・カルテルとクリムゾン・ドーンが抗争しているモス・アイズリーの街を舞台に、両組織を共倒れに持ち込もうとする賞金稼ぎの姿を描いた『砂漠の用心棒』になりますね、きっと。

さて、この後は映画本編を観たけれども、よく判らない箇所が有った皆様方向け。「あいつ誰?」もしくは、「この映画、エピソード幾つと幾つの間?」という件についての話。
 
手前はスター・ウォーズヲタクであったことは一度も無いのですが、『EPⅢ シスの復讐』直前に出版された『スター・ウォーズ・ビジョナリーズ』という邦訳コミックを持っております。

このコミックには独立星系連合の幹部ワント・タンバーが主役の短編などがあり、“ワット・タンバーのこの後の運命は映画『EPⅢ シスの復讐』で!”とか書いてありながら、映画本編では1秒たりとも活躍しないという、そういったスピンオフです。

その中に1編、当時としてはとんでもない展開があったのです。プリクエル(EPⅠ~Ⅲ)のある時点で死んだと思われていた登場人物が実は生きており、復讐のためタトゥイーンのオーウェンおじさん家にカチコミをかけるのです。念のため申し上げておきますが、その人物はパドメではありません。

まあ、コミック版のスピンオフで、設定も映画と連動していないようだし・・・、と思っていた数年後『クローン・ウォーズ』シーズン3でそのキャラクターの弟が登場します。まあ、本人を復活させるわけにいかないよなあ、どう見ても死んでたし・・・、と思っていた翌年、『クローン・ウォーズ』シーズン4でとうとう本人の生存が確認されます。シーズン5ではブラック・サンやパイク・シンジケートなど銀河各地の犯罪組織を統一したり、『反乱者たち』シリーズに登場したりしていたのですが、その人物が今回とうとう、実写版映画の世界でも生きていることが確認できました。そう、あのキャラクターは『EPⅢ』後の時間軸でも生存していたのです。

この他にも、スピンオフで名前が何度か挙がっていた地名や人名、固有名詞など、例えば土着の信仰に基づいた魔術としてフォースを操る魔女が暮らす惑星ダソミアとか、帝国の秘密研究所が隠されているモー星団とか、賞金稼ぎのボスクやオーラ・シング、コロ・クロー・フィッシュ、マイノックなどの名前が映画の各所に散りばめられて登場しています。スター・ウォーズがお好きな方、詳しい方なら、登場する地名や人物名に心当たりがあることでしょう。
 
追記:DVDを購入したのでコレリアの宇宙港の場面をコマ送りで再生しました。結果!ドロイドは他ドロイドの空似であることを確認致しました。