無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

スター・ウォーズ エピソードⅨ スカイウォーカーの夜明け

公開されたばかりなので極力ネタバレなしで参ります。

監督はJ・Jエイブラムス氏、『LOST』『エイリアス』『フリンジ』などの連続ドラマの脚本・監督で名を上げて映画の世界にも進出した方です。思いますに、エイブラムス監督の映画にしろドラマにしろ、マンガ家の浦沢直樹先生を思わせる展開が時々あるのです。個々の展開とか描写が似ているわけではなく、ストーリー展開のパターンとして、話し運びの方法論が似ていると申しますか、少々説明が難しいのですが、何とか説明してみましょう。

 

「大きな謎が提示され壮大なストーリーを予感させる冒頭の展開」「一つの伏線が解決する度に新たな謎が現れ、様々なキャラクターの思惑が交錯し、危機また危機が次々襲いかかり息つく間もない中盤」「終盤に入り思い出したように大慌てで始まる伏線回収」「あらゆる登場人物がばたばたと退場し、リアルタイムで見ていると展開の早さに圧倒されていたが、通して読むとどこか釈然としない最終巻」・・・という。

 

漫画神手塚治虫先生の『鉄腕アトム』のエピソード「地上最大のロボット」を原案にした長編漫画を浦沢先生が連載すると聞いたとき、まあ何というか蛮勇だなと、そう感じたことを思い出したわけです。いつ?そう『スター・ウォーズ エピソードⅦ フォースの覚醒』の監督がエイブラムス氏に決まったと聞いた丁度そのときです。

 

実際『エピソードⅦ』を観てみますと、スター・ウォーズのシリーズにおけるお約束、オープニングの説明字幕のロール、その最初の1行目から驚きの展開を披露するわけです。“ルーク・スカイウォーカーが姿を消した!”そして一本の映画の中にちりばめられた謎また謎の数々。主人公レイは何者なのか?今回の悪役、最高指導者スノークの正体は?ファースト・オーダーはどのような組織なのか?旧反乱同盟軍のメンバーは今頃どうしているのだろう?ルークは次世代のジェダイにどんなトレーニングを課すのか?なぜマズ・カナタはルークのライトセイバーを持っていたのだろう?大損害を受けたファースト・オーダーの次の一手は?

 

手前はスター・ウォーズヲタクであったことはこれまでただの一度も無いのですが、エピソードⅦからⅧの間にあれこれ予想して、口角泡を飛ばして議論したのは懐かしい思い出であります。

 

先に挙げました最初のクエスチョン、レイの正体は何者なのか?これ一つを取り上げただけでも大いに盛り上がったものです。「ルークの娘に違いない。ジャクーの風景は意図的にタトゥイーンに似せているし、冒険を夢見ていながら踏み出せない性格も重ね合わせている。おまけにパイロットの才能があり、ドロイドに共感できるというのも、ルークにそっくりだ。」「ハン=ソロとレイアの子だろう。ルーカスフィルムがディズニーに買収される前の旧設定では、ハンとレイアの間には3人の子供が居て、うち二人は二卵性の双子だ。今回のカイロ=レンとレイは兄弟という展開になるに違いない。ポスターでも二人が対になるように描写されている。パイロットの才能はソロから受け継いだものだ。」「それは違うと思う、初見でいきなり宇宙船を操縦できたのはアナキンと重ねた演出で、砂漠に暮らしているのもアナキンをイメージしている。レイが機械に詳しいのも、9歳でドロイドを組み立てたアナキンの才能を受け継いだもの。いずれにせよアナキンつまりダース・ベイダーの孫であることに違いないが、レイアの子である証拠にはならない。やはりルークの娘だろう。」「メイクや顔つきなどパドメに似せてきているのも、アナキンの孫そしてレイアの娘であることを強調するための演出だ。そうすると、スカイウォーカーの家系であることは確定だ。」「ちょっと待ってほしい、旧設定を持ち出すのなら、皇帝パルパティーンには何人もクローンがいたという設定が過去にありました。ライトセイバーの構え方がパルパティーンと酷似していることから考えるに、性別は異なりますが皇帝のクローンの一人ではないでしょうか。ジャクーの住民の噂話として、惑星のどこかに皇帝の秘密研究所が有ったという噂が残っていること、ジャクーには帝国軍の残党が作った村があり彼らが何かを守っていること、彼らが守っているものがクローン研究施設と考えれば筋は通ります。さらに、ジャクーの住民の間では、皇帝がジャクーに潜伏して家畜を飼ってのんびり暮らしているという噂まで有るんですよ。」「パルパティーンの女体化か・・・、アリだな。」「ねーよ。あの構えはシスの流儀じゃなくてフォームⅦだな、よく似ているから。フォームⅦの使い手は今まであまり劇中に登場していない。何しろ流派の開祖がマスター・ウィンドゥで、彼はエピソードⅢで死んでしまっているからね。」「ジャクーで帝国軍が研究していたのはきっとアレだ、ダース・プレイガスの秘術だよ。ミディ=クロリアンから生命体を作り出すとかいう。つまりレイは帝国軍が作った人造ジェダイのプロトタイプだろう。」「そういえば、ダース=プレイガスもしくはその技を盗んだシディアスが、ジェダイを滅ぼすためにシスの錬金術でアナキンを作ったという見方もありましたね。レイは改良版アナキン、いわばダース・ベイダーMkⅡといったところではないでしょうか。」「ベイダーの女体化か・・・、アリだな。」「おまえ少し黙ってろよ」「どの説を採ってもどこかで矛盾が出るんだから、もういっそオビ=ワンとマンダロアのサティーン公爵夫人の娘という展開で良くね?」

 

まあ、エピソードⅦで提示された謎の一つとっても、このように議論が白熱していたわけです。そんなこんなで迎えたエピソードⅧ『最後のジェダイ』これはこれで、Ⅶとは違う意味で驚かされました。『フォースの覚醒』で大量の謎がばらまかれていたため、Ⅷが謎解きと解説のために作られた映画になっていたら嫌だなあ、とは思っていたのです。ですがまさか、全作で挙げられた謎を一つ一つ完膚無きまでにブッ潰して回る映画になっていたとは、予想の範疇を越えていました。

 

前作の謎解きの為の映画になってはいけない、さりとて提示された謎を無視するわけにもいかない。しかもどのような回答を出しても正解にできるが、その一方で他の描写と矛盾する箇所が必ず出てしまう、さあどうする。

 

答え、全部ブッ潰す。いやー、びっくりしました。

 

そしていよいよエピソードⅨ、エピソードⅧの時とはまた違った部分で不安を覚えていました。Ⅶで今後につなげるために用意していたストーリーのフックを、Ⅷで軒並み叩き壊されて、どう話を繋げるのかと。

 

そこで冒頭の話題に戻るわけです。J・Jエイブラムス氏は海外ドラマ界の浦沢直樹ではないか?これまでずっとそう疑っていたのです。『スカイウォーカーの夜明け』を観終わった後考えを改めました。『フォースの覚醒』冒頭の字幕ロール“ルーク・スカイウォーカーが姿を消した!”に匹敵する、観客を驚かせる強力な引きを、今回のオープニング一行目から見せてくれます。

 

「かもしれない」「ではないか」なんて疑ってごめんなさい。J・Jエイブラムス氏は海外ドラマ界の浦沢先生に違いない!と、この度確信したのです。

 

ネタバレにならない範囲で映画の見所を挙げますと、今回はやはりキャラクターの掛け合いが小気味よかったと言えましょう。
エピソードⅦでは、レイ、フィン&ポーの三人が魅力的に描けていましたが、その分カイロ=レンが割を食っていました。ただのかんしゃく持ちのボンではあるまいか、といった描き方で。一方、エピソードⅧでは、欠点も含めてカイロ=レンのキャラクターが掘り下げられ・・・、まさか悪役側から「ベイダーに憧れてマスクかぶっているだけのガキじゃんかよう(意訳)」と言われるとは、それ言っちゃうんだと不意をつかれましたねあの場面。えーと、それぞれトラウマを抱えたレイ&カイロのやりとりが増えた分、レイ、フィン&ポーの三人の掛け合いが著しく減っていました。今回、その辺のバランスはとれていますし、レイはレイらしく、無鉄砲だったり無邪気だったり感情的になったり、くるくる変わる表情を見せつつ主人公らしい側面を披露しています。フィン&ポーの掛け合いも安心して見ていられます。互いにけなし合ったりほめ合ったり、本気でない程度に噛みつき合いつつ互いに信頼し合っている感じがイイ。カイロ=レンを演じるアダム・ドライバーも、ちゃんとアナキンの孫でハン=ソロの息子そしてルークの弟子、といった背景を踏まえた所作で、前作までは若い頃のアナキンに寄せた表情をしていたのが、今回ふとした瞬間にハン=ソロの仕草がちょっと出てきたり、この動きはルークから学んだものだろうなと感じさせるところがあったり。

 

話は尽きませんが、最後に本編と一切関係のない話を一つだけ
パンフレットに載っている登場人物の中に、頭部はアストロメクドロイドで顔は事務作業ドロイド、そして胴体はプロトコルドロイドのものを使用しており、賞金稼ぎのようなケープを羽織って二丁拳銃で武装している、一風変わった外見のドロイドの写真がありました。そのドロイドの名前がAL1-L3、自分で自分を組み立て直した、主人を持たない自立したドロイドだそうで。型番がL3で、自己改造を繰り返しているドロイドに心当たりがあるのですが。ひょっとしてL3突撃チームの生き残りだったりするのではないですかな。