無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

Archives of the Empire volume II:ウォーハンマーRPG4版

『Archives of the Empire volume II(帝国公文書集 第二巻)』が遂に発売されました。前作『Vol.I』ではエンパイア領内に暮らす異種族、すなわちドワーフ、ハーフリング、そしてウッド・エルフについて詳細な設定が示されておりました。『Vol.II』でも全6章のうち最初の1・2章がエンパイアで暮らす種族の紹介に割り当てられております。

本書で紹介されているのは「大きくて、騒々しく、粗野で、きわめて暴力的な」種族、オウガでございます。ルールブックではクリーチャーとしてのデータが312ページに載っております。

オウガをプレイヤーキャラクターとして運用するための各種ルールが遂に『Archives of the Empire Vol.II』で公開となったのであります。

キュービクル7エンターテイメントのページで予告記事を読んでおりました故、オウガがPC種族に加わることは手前も存じておりました。しかし実際に目にして、その情報量に圧倒されたのであります。
オウガ棍棒ではり倒されたくらいぶっ魂消た、と申し上げて差し支えないでしょう。

さてアナタのお手元の英和辞書を引くと「Ogre(名詞:オーガー、あるいはオウガ)民話に登場する人喰い巨人、人喰い鬼」などと書かれているかと思います。

誤解しないで頂きたいのですが、ウォーハンマーの舞台となる世界においてオウガは必ずしも邪悪な人喰い巨人というわけではございません

第一に、彼らは必ずしも人間を取って食うわけではなく、どんなものでも食べてしまうのであります。どんなものでも、というのはつまり・・・、どんなものでもという意味です。ゴブリンやオーク、ドワーフにエルフ、トロールそして混沌のディーモンまで、文字通り何でも胃袋におさめてしまうのです。

第二に、彼らは必ずしも邪悪ではありません。なるほど恐ろしげな姿を見て怪物の類ではないかと思う御仁もいらっしゃるかもしれません。ですが『ウォーハンマーRPGルールブック』のどこにオウガが掲載されていたか、もう一度よく思い出してください。

「ライクランドの怪物たち」ではなく「暗黒の下僕たち」でもない。人間、ドワーフ、ハーフリング、エルフと並んで「ライクランドの住人たち」のセクションに載っているのです。

左様、オウガもライクランドの住人なのであります。『Archives of the Empire volume II』の第1章は、エンパイアで暮らすオウガについて様々な切り口から語っているのです。

これまでの各種追加サプリと同じく年表もあります。建国王シグマーの時代から近年のパラヴォン戦争まで数々の歴史的事件において、傭兵として狩人として、はたまた生きた建築重機として働きエンパイアを支えてきたオウガたち。彼らのこれまで語られていなかった活躍が幾つも記されています。

今までの追加資料では、「支配者、支配者の家族、家臣団、有力者、貴族家やギルドなど政治力を持つ組織、軍事力、領土」の順でその国土について、あるいはその種族について語ってきましたが、オウガはそうではありませんでした。

なるほど考えてみればそれもそうです。オウガは種族全体が放浪の旅へ向かう気質を持っており、エンパイアに領地を持っていません。支配者もいません。身を守るための軍隊を持つ必要も無かったことでしょう。何しろ彼らはそれぞれが一人軍隊とも言える怪力の持ち主なのですから。

人間はもとより、ドワーフ、ハーフリング、エルフとも甚だしく異質なオウガについて、まずは第1章を読めばキャラクター創造に必要な背景を把握できる事でしょう。
背景説明の中には、シナリオフックになりそうな話題も各種ございます。

第2章からいよいよプレイヤーキャラクターとしてのオウガについて。データが続々と披露されます。ひょっとすると、ルールブックに記載されている他のどの種族よりも内容が充実しているかも知れません。

キャラクター創造の手順はこれまで登場してきた各種族と同じです。能力値、職業、種族異能、技能、ランダム名前の表を用います。

オウガは他種族をどう見ているか、そして他種族からオウガはどう見えているのか、ルールブックと同様に「まったく、オウガときたら・・・」のコーナーもあり。

意外なことにエルフは、オウガに対してさほど悪印象を持っていないようです。そしてこの見方はハイ・エルフだけでなくウッド・エルフでも共通しています。洗練された文化で知られるエルフが、対極にあるオウガをさほど悪く言わないことに手前は些か驚かされました。しかしよくよく考えたところ、エルフの言い分は彼らの生き方に沿ったものであり、納得できるものだったのです。

キャラクター創造のページには、新たな心理的特徴や「どえらい二つ名」など幾つかの追加ルール、さらにオウガのキャラクターを運用する際に有用なその他の情報もあり。

例えば、「キャラクターへの10の質問」の中にも、オウガを理解するための手がかりとなる記述が見られます。

キャラクター創造の次は所持品。各種のオウガ専用装備が載っています。オウガをプレイヤーキャラクターに選択可能とはいえ、装備については一切合切「データはそのままで、価格と重量を○倍にすること」などの方法で簡略化しているだろうと高を括っておりました。

ところが何とまあ、数々の専用アイテムが並ぶコーナーが設けられていたのです。
近接武器だけではなく、オウガの狩人が使う銛撃ち機のような射撃武器、さらにはオウガが抱え撃ちする大型の黒色火薬武器まで。

武器にバリエーションが欲しいですか?オウガは一般的に棍棒を自分用にカスタムする事を好んでおります。そういうわけで改造したオウガ棍棒の扱いも載っています。

装備品の次は、いよいよオウガの魔術師について。“おっかねえ大アゴ様”の司祭でありシャーマンでもある「オウガのブッチャー」の話題でございます。

オウガのブッチャーは何かを食らうことで“大アゴ様”の力を引き出しているという設定となっています。そのため、オウガは独自のルールを持つ魔術師キャリアが設けられているのです。

ウォーゲーム版ウォーハンマーに登場するオウガの魔術師は、天から降りてきた凶星としての“大アゴ様”を崇める予言者や、喰らった獲物の血肉から力を引き出すシャーマン、あるいは悲嘆山脈にある火山を“大アゴ様”の現身とみなして崇拝する司祭など、幾つかの流派に分かれています。この設定はウォーハンマーRPG4版にも引き継がれていました。

しかしながら、オウガ魔術師についての背景設定はさほど量が割かれておりません。より詳しく知りたいのであれば、今のところはウォーゲーム版の設定を参考にする事になるかと思います。

それでもルール面は充実しており、オウガの魔法使いについての追加ルールは種族の特性に合わせたものとなっております。

例えばルールブックにもあるように、一般的な魔術師は【知力】で呪文を詠唱し、司祭は【協調力】を仕える神格との対話に用います。ではオウガの魔術師は(必然的に【知力】【協調力】の値が低いにも関わらず)どのように力を引き出しているかというと・・・、

設定とルールが論理的に一致している、優れた追加ルールでございました。

オウガ専用呪文も掲載されております。エンパイアの学者の間で「大食魔術」「食まじない」「胃霊秘法」など様々な名前で呼ばれているもので、“骨砕き”“脳ミソすすり”“トロールのはらわた”などの、聞くだに恐ろしげな呪文の数々が示されています。

魔術師以外にもオウガの傭兵と騎兵がキャリアとして新規に設定されています。

ええそうです、手前たった今、騎兵と申しました。言い間違いではありません。オウガの騎兵です。
オウガを乗せて走れる馬などいるのか?尤もな質問です。

ご安心ください、オウガが騎乗するのは、馬ではございません。騎乗用の動物が新たに追加されております。手前と致しましては、完全武装のオウガ騎兵がこちらへ向かって突進してくるような光景に出会いたくはございません。

とはいえ、この巨大な動物をどこで飼ったものか、思案のしどころではございます。確かに戦いでは圧倒的な強さを誇るキャリアですが維持コストも莫大なものでして、結局のところプレイヤーキャラクターとしてはバランスが取れているわけです。
・・・GMには関係ないんですけどね。

オウガに関する記事はざっとこの通り、“おっかねえ大アゴ様”もご満悦の圧倒的なデータ量でございました。

第3章はオールド・ワールドの星座について。
星座の形状、季節、その星座によって象徴される性格、関連する職業や神格といった内容が記されています。

「リアの大釜」「竜姿ドラゴマス」「グルングニの飾り帯」など、オールド・ワールドの夜空を彩る星座については、2版の『ウォーハンマー・コンパニオン』で既にご存じの方々もいらっしゃることでしょう。

今回新たに大きく追加された内容を2つ挙げましょう。

1つは星座が図入りで紹介されていることでございます。これにより、星座がどのような形なのか、明確に判るようになっております。

もう一つはより重要なものでございます。4版ではキャラクター創造の際に星座を決定することが出来るようになったのです。そして、星座によって能力値や異能に若干の修正が入るのであります!

過去の版ではキャラクターの性格を演じる際の味付けとして利用するものでした。選択ルールではございますが、4版ではルール上の意味があるものとなりました。

極端な話、“魔女の星の下に生まれたため”魔法が使える小作農、という初期キャラクターが出来上がることもあるわけです。

魔狩人さん、こいつです!

冗談はともかく、星座と結びついている神格について、オールド・ワールドの社会や文化で占星術はどのような位置づけか、など様々な話題があるため第3章にはいろいろな使い道がありそうでございます。

第4章は、マジックアイテムの表でございます。
このリストに全部で幾つマジックアイテムが掲載されているか、手前は説明することが出来ません。

何故なら、第4章に載っているのはマジックアイテムをランダムにジェネレイトするための表だからであります。そう、シナリオの報酬としてダイスをロールするだけで、GMはその場でマジックアイテムを設定することが出来るのです。

上級魔術師になるには魔法アイテムが必要と基本ルールブックに書かれているのに、魔法アイテムはルールブックに載っていないと嘆いていた中堅魔術師のそこのアナタ!
GMの前で『Archives of the Empire volume II』を開いて、以下のような独り言を言ってみましょう。

「魔法アイテムの特徴をランダムに決められる表があるのか、これは便利だなあ」とか「いろいろな魔法アイテムが載っているぞ」あるいは「不安定な魔法と呪い表!そういうのもあるのか」といったものです。

個人差もありますが、半月もすればアナタのGMはマジックアイテムが登場するシナリオを作りたくて堪らなくなっているはずです。

それでもだめなら、次の作戦です。GMがマジックアイテムを用意しないのであれば、アナタのキャラクターに製作させましょう
マジックアイテムを作るための冒険外活動のルールも設けられています。極め付きに優秀な魔術師の才能だけでなく優秀な職人としての技能が必要ではございますが、キャラクター自身でマジックアイテムを作ることが出来るようになったのです。

とはいえ、通常のルールでは魔術師のキャラクターは職人としての技能を持ち合わせておられない。よって、職人との共同作業となることでしょう。

共同作業を行わなければならないのであれば、マジックアイテムの作成においては公に正体を明かせない分、似非魔術師が不利ですって?

それはどうでしょう、似非魔術師の技能リストをもう一度読み直すと、大いに役立つものが見つかるものと手前確信してございます。

第5章はフレデルハイムの大療養所について。
フレデルハイム村のほど近く、シャリア教団の運営する療養所がございます。そう、『ライクランドに冒険あり(Adventure afoot in the Reikland)』で言及されているフレデルハイム大施療院でございます。ルールブック付属の地図をご覧ください、アルトドルフのすぐ北に位置してございます。

この療養所に関する詳細がこの章で述べられています。建物の見取り図や職員たちのデータが載っております。ウォーハンマーRPGが「残酷な世界の冒険」を名乗っているだけのことはあり、この建物にはずいぶんと秘密が・・・そしてシナリオフックが、隠されている模様です。

療養所に入院していることが既にルールブックで示されているあるキャラクターが第5章に掲載されています。それだけでなく、過去の資料を読んでいるアナタがあっと驚くキャラクターまで登場するのです。

第6章は大規模戦闘についてのルール
各種の条件に基づいた戦力差や戦場に現れるユニット、作戦やキャラクターたちの行動によってどのように戦況が変わっていくか、判定するための各種ルールが示されています。

例えば、ダークエルフの海賊団に襲撃された漁村を、村人と協力して守り抜くというシナリオが出来るわけです。すると、だれが菊千代役になるかが問題ですね

冗談はともかく、大規模戦闘でございますから、過去の版では扱われなかったブツが登場するわけです。すなわち、戦争兵器です。
よろしいですか、剣だの槍だのといった武器ではなく、大砲やら投石機だのといった戦争兵器のリストが載っておるのです。
ナルンの砲術大学校が誇る連射砲、ヘルブラスター・ヴォレイ・キャノンがとうとうRPGの世界にも進出してきました。

高価な上に運用には人手も要りますので、データがあってもなかなか手が届かないアイテムですが、
・・・GMには関係ありませんね。

最後に付録(Appendix)が設けられており、「状態」それもいずれも心理的なもの、について新たなルールが提示されています。

以上で本編全6章と付録をざっと見て参りました。

前半の膨大なデータ量に圧倒され、脳を休めるために読み物の章を開いたら内容の濃さに二度圧倒されるという、中身がぎっしり詰まった本でございました。

ところで気になったことがございまして、『Enemy within(内なる敵)』キャンペーンで登場していた御仁や、『Archives of the Empire Vol.II』の記述から考えますに、ホルスヴィヒ=シュリスタイン家は魔法の才に恵まれた家系なのですかね。

…おや、誰か来たようです。
誰でしょうこんな夜更けに。