無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

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The Imperial Zoo:ウォーハンマーRPG4版

皆様待望のウォーハンマー4版モンスターデータ集『The Imperial Zoo(帝立動物園)』が遂に発売されました。数え方にもよりますが掲載されているモンスターは50体以上、同種モンスターのバリエーションも数に入れますと60体を超えます。

その中には強化バリエーションどころではないほど強大な、個体名が付けられたクリーチャーさえも載ってございます。デトレフ・ジールックの戯曲にも登場する伝説の怪物とアナタのPCが戦うことだって出来るのです。

どうかそのようなことがありませんように。

プレイヤーの皆様、ウルリックの髭にかけてどうかご安心ください。『The Impeial Zoo』はモンスターデータ以外の部分も充実しているのです。後半部に設けられた付録のデータ集を用いることで、邪悪なGMが繰り出すクリーチャーGMが繰り出す邪悪なクリーチャーに対抗するアナタのPCもぐっと強化されることでございましょう。

内容を見て参りましょう。

『The Imperial Zoo』を開いて数ページ進むと、もう一つの表紙が出て参ります。活版印刷風の書体でこう書かれています「帝立動物園の依頼による知識を探求する為の三度の遠征 書記テオドシウス・スクライバー記す」。このように、ウォーハンマー世界の学者が記した冒険記という体裁で書かれているのです。

2版時代の『オールド・ワールドの生物誌』も単なるデータ集ではなくイン=ユニバース形式を採用しており、ゲームの追加サプリメントの中に「ヴュルトバットのオドリック著 災いなす獣の書 善美と下劣の生き物類考」という書物が入れ子構造になっていたことは皆様ご承知の通りです。

さて『オールド・ワールドの生物誌』では各クリーチャーについて立場の異なる3つの意見“世間の見方”“学者の見地”“やつらの言い分”が提示され、読み物としての内容に厚みを持たせておりました。モンスター種族の当人・・・人間ではないですけど便宜上、の言い分まで並んでいる斬新な構成に当時手前は驚かされたものです。

では、『The Imperial Zoo』ではどうなっているか申し上げましょう。スクライバー氏の探検隊に参加したメンバーが冒頭の見開きで紹介されておりまして、本書の挿し絵を描いた(という設定の)画家やエルフの狩人など6人で構成されております。タンカー、シューター、ヒーラー、ウィザード、そしてネゴシエーターが揃ったゲーム的にバランスの良いチームと言えましょう。

ところで、著者の名前がどうも引っかかるのです。テオドシウス・スクライバー、Scribeする人、名前の意味は「書き記す人」って事です。ゲームの登場人物に言っても詮無いことですが、架空の人物ぽくありませんか

話題が逸れ申した。スクライバー氏の探検隊メンバーが記したメモが時折本文中に挟み込まれています。薬剤師や戦士、狩人そして魔術師が、彼らの専門分野からそれぞれの意見を披露しています。

例えば、素材としての有用性はどうか、戦うときに注意すべきことは何か、神話や伝承における怪物の起源について、様々な話題が冒険記の合間に差し込まれているのです。

専門的な意見だけではなく、彼ら自身の個人的な意見もあるので読み応えがあります。最初は誰のメモか判り難いかもしれませんが、キャラクターの個性を反映した印章が押してあり、さらに筆跡というかフォントも変えているので、慣れればすぐに誰の言葉か判るようになっています。
細かいところでは、メモを留めるピンや単語の選び方にも彼らの個性が出ていました。

読み物としておもしろかった箇所はいくつもありますが、あえて一つだけ特に興味深かった内容を選ぶとすると「神話上のスクイッグの起源は“おっかねえ大アゴ様”か、それとも“ゴルク(あるいはモルク)”か」議論が提示されていたことです。これはウォーハンマーのシリーズの一つ『Warhammer Age of Sigmar』の設定に関連するものと手前推測いたします。

2版の『オールド・ワールドの生物誌』と比較した場合の違いとしては他にも、分類の仕方が挙げられます。
『オールド・ワールドの博物誌』はその題名の通り博物誌ですので、モンスターデータをそれぞれ「混沌の軍勢」「ロゥレンの森の住者」「角在りし鼠の子」のように分類して記載していました。

一方で4版の『The Imperial Zoo』は冒険記の体裁を取っておりますため、博物誌の形を借りた2版ほどには分類が明確ではありません。別の方法で、それも冒険記特有の方法で分類しています。

場所による分類になっているのであります。

三回の遠征がそれぞれ章を分けて記されており、いずれの章の始めにも地図と目次が付されています。

第一次遠征では、タラベックランドを中心とする地図が掲げられており、エンパイアの大半を占める広大な森林地帯の動物たちが紹介されています。森の中に生息する狼やゴブリン、そしてエンパイアの東端にある最果て山脈の動物、山脈を越えて東方からエンパイアへ渡ってきたと思われる動物類も扱っています。最果て山脈では高名なるカラク=カドリンの砦町にも滞在いたします。

第二次遠征はアルトドルフを中心とした地図から始まり、ライク河流域と沼沢地、西の隣国ブレトニアとの国境にある灰色山脈を舞台にします。当然の事ながら、淡水生のモンスターや灰色山脈の猛禽類を扱っています。

灰色山脈越えを実施しブレトニアでも調査を行い、当地の光景や国境沿いの砦町についても言及あり。

アセル・ロウレンの森と近いせいでしょうか、灰色山脈近辺では第一次遠征と若干印象の異なるクリーチャーも登場します。

第三次遠征はエンパイアの南方にあるティリア半島に向かう旅です。なぜ目的地がティリアかというとレーマ共和国の大闘技場には「帝立動物園に匹敵するほどの」猛獣が集められているためだというのです。ティリア半島に向かうための黒色山脈越えで遭遇した獣から、闘技場で飼育されている世界各地の猛獣、南方の海に生息する伝説上の怪獣までが紹介されており、最もエキゾチックな章でした。

付け加えておきますと、登場するレーマの豪商も猛獣に負けず劣らずのインパクトのある個性的なキャラクターです。

このように、エンパイアを取り囲む三つの山脈、国土の大半を占める森林地帯、主要な交通網であるライク河流域それぞれの生物種を紹介し、さらに南方の猛獣たちをも取り扱う冒険記なのです。

エンパイアの北の境、鉤爪湾につきましては本書では取り扱ってございませんでした。今後出版される『Salzenmund(ザルツェンムント)』に期待しましょう。

ザルツェンムントは地理的に興味深い場所にある都市でございまして、帝国最大の貿易港(マリエンブルグは除く、理由はご承知の通り)でありながらライク河タラベック河いずれの流域でもないため、帝国内の都市との主要交易路が陸路となっているのです。

話題を戻しましょう。これまでモンスターデータの章にざっと目を通して参りましたが、『オールド・ワールドの博物誌』とは異なりまして、スケルトン等のアンデッドあるいはディーモンのような魔法構造物についてはほとんど載っていません。ダークエルフやヴァンパイアのような文明を持つ知的種族もほとんど載っていません。『The Imperial Zoo』はその名の通り、動物に関する題材に集中しているのです。

それでも、ゴブリンとスケイブンそれにトロールが少々掲載されてございます。

ケイブンについては、「スクリール氏族の試作機」「モウルダー氏族による独創的な実験体」といったものも掲載。名前を聞くだけでワクワクしてきませんか?

ウォーハンマー世界に暮らす皆様は、トロールを知的種族と呼ぶかについて疑念をお持ちかもしれません。確かにルールブックによれば、一般的なトロールはオークの基準から見ても抜け作であります。しかしながら、魔法を操るトロールの鬼婆に限れば、確率的に申し上げましてアナタの初期キャラクターより賢い可能性がとても高いのです。

ゴブリンについても新たに追加されたルールがございます。これまで《祝福》《奇跡》の異能を取得できたのは人間だけ、追加資料『Rough Nights & Hard Days(日夜是騒乱)』を合わせても人間とノームだけでした。エルフ、ゴブリン、スケイブン、オウガなど他種族の司祭に関してはこれまで魔術師と同じルールで処理していました。何と!『The Imperial Zoo』ではゴブリンに独自の《奇跡》ルールが設定されているのです。

他にも動物が「優位」を取得するためのルールも追加されています。

GMが操るキャラクターを強化する内容についてはこのくらいでもう十分でございましょう。プレイヤー向けの話題を紹介いたしましょう。冒頭で述べました付録(appendix)のコーナーでございます。

倒したモンスターを素材に変えて換金したり、アイテムを作ったりするためのルールが掲載されています。『Imperial Zoo』の冒険記に登場した薬師が記した章という体裁で進みます。

素材に変えたモンスターの換金については、荷重あたり価格の相場、採取できる有用部位の荷重、鮮度による価格変動のルールが掲載されてございます。

そう、荷重あたり価格です。ラバの牽く荷車が冒険で何の役に立つのかと嘆いていた熟練行商人のそこのアナタ!投資した25Gを回収したいと思いませんか?

もちろん、手に入れた素材を売るだけではなく自分で利用したり、職人に加工してもらったりという事も考えられます。アイテムに加工するためのルールも整備されており、モンスターを材料にした強力なアイテムが次々と紹介されているのです。

ドラゴンの血で焼き入れした剣を作ったり、グリフォンの羽から作った矢羽根なんてものもあります。ルール的に特段の効果が設定されていない虫除けや接着剤などのアイテムも読んでいて楽しいものです。

付録の章を書いたキャラクターの本職が薬剤師であるため、武器だけではなくドラフトも多数追加されております。「薬剤師」のキャリアの活躍の幅が飛躍的に広がりました。

他にもこの章に載っている有用な情報といたしましてはモンスターの目録がございます。

名称、レア度、大きさ、危険度、荷重あたり価格の相場、掲載ページ、素材としての主な用途、これらが1ページに収まっております。どのモンスターがどのページに掲載されているか参照性が高いのは有り難いです。

なお、本書末尾のあたりにはクリーチャー特性とその効果をまとめた表もあり、こちらも便利です。

モンスターの危険性を測る指標につきましては2版時代には「屠殺容易度」というパワーワードがございましたが、今回はもう少しおとなしい表現になりました。「無害」「災難」「危険」「致命的」の4段階表示となっています。

追加アイテムの紹介が終わると、探検隊のメンバー6名のキャラクターシートとなってございます。『ウォーハンマーRPG スターター・セット』と同様にキャラクターの背景や秘密が記されています。

ちょうどプレイヤーの皆様の冒険者一行と同じ役割分担のチーム編成ですので『The Imperial Zoo』はスクライバー氏の一人称による疑似リプレイとして読むことも出来ます。

『The Imperial Zoo』を一度は読み終わったという方は、キャラクターシートに目を通してキャラクターたちの背景を頭に入れてから、もう一度読み直してみて下さい。きっと新たな発見があることでしょう。