無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

Altdorf:Crown of the Empire:ウォーハンマーRPG4版

ようこそアルトドルフへ。帝国領内最大の大河ライク河そしてタラベック河が合流するこの地・・・、より正確に言い直しましょう。オールド・ワールド全土で最大の2本の大河が交わるこの地こそ、まさしく交通の要衝であり、古く神君シグマー公の御代から続く文化の交差点でございます。

4版スターターセットのユーベルスライクから参加したお客様は、トイフェル河を経由してライク河を通り遠路はるばるいらしたものかと思います。あるいはベーゲンハーフェンからベーゲン河そしてライク河のコースと言ったところでしょうか。

本船はまもなく目的地であるアルトドルフに入港いたします。甲板から見えますひときわ高い建物は皆様ご存じの通り、皇帝カール・フランツⅠ世陛下のおわします帝国宮殿でございます。さらにその向こう、壮麗なドーム屋根が日の光を反射して眩しく輝いており・・・、ませんね

本日は霧が少々出ておりますので、目に優しい程度にぼんやりと輝いております。あの巨大なドーム屋根の建物こそが、エンパイア統一の象徴にして帝国の礎、シグマー教大神殿でございます。

この霧もアルトドルフ名物でございまして、『Altdorf: Crown of the Empire(アルトドルフ:エンパイアの帝冠)』8ページの「霧と悪臭表」を用いて状況を決定することができます。

この街の名物は数多くございます。百件酒場通りを飲み歩くも良し、ケーニヒス広場の歴代皇帝像やカール・フランツ公園を見物して回るのも良いでしょう。お土産でしたらこの街最大のチーズ専門店、チーズ・オブ・エンパイアに向かわれるのはいかがでしょう。

魚市場の仮設舞台から帝立劇団まで、文化都市であるアルトドルフには街のあちこちに劇場がございます。手前のお勧めはフォルクスオーパー・アルトドルフの「荒野のスヴェン」。エキゾチックな舞台、個性的な登場人物が織りなす魅力的な筋書き、人気俳優揃い踏みのキャスティング、手に汗握る終盤の見せ場。文句の付けようがありません。

演劇の殿堂劇場の新作が意欲作であることは認めますが、タラダッシュの原作の意図を違えていると思うのです。「カラク=カドリンの虜囚」はアルトドルフ劇場で現在上演中、古典に範を取った手堅い作りで、余分な演出をそぎ落とした通の観客向けの洗練された作品です。

下船の際はガイドブックをお忘れなく。幽霊が出ると噂のケーニヒスヴァルド宮は帝国博物館のすぐ隣、したがいまして観光にうってつけのコースです。帝国博物館へ入館の際は服装にご注意ください、守衛に止められるおそれがございます。帝立動物園の案内図はガイドに載っておりませんので、現地で別途購入願います。縛り首見物の際はスリ置き引きの類にくれぐれもご注意を。

それではもう一度、ようこそアルトドルフへ!

エンパイア最大の都市、帝国の首都アルトドルフの設定資料『Altdorf: Crown of the Empire(アルトドルフ:エンパイアの帝冠)』PDFが販売されております。皆様もうご覧になりましたでしょうか。ミドンハイムに続いて二冊目となるエンパイアの大都市のガイドブック、その内容をざっと見て参りましょう。

これまでの追加資料集と同じく、最初にその土地の歴史と年表が設けられています。続く章では政治体制について。現在の統治者の家族構成、宮廷の実力者達、政治力を持つ団体と徐々に説明範囲が広がっていきます。その後エリアガイドが始まりまして、地区の紹介の冒頭には都市の入り口で出会う人々が例示されます。宿屋や主要な通りといった内容に続き、いよいよ各地区の紹介記事。一通り地域の紹介が終わると、城壁の外にある物事の紹介記事、城壁の中に潜む脅威を案内し、最後に付録のページ、といった構成。

この構成は『Enemy in Shadows COMPANION(影に潜みし敵 冒険の手引き)』『Middenheim: City of the White Wolf(ミドンハイム:白狼の都市)』『Archives of the Empire vol.Ⅰ(帝国公文書集 第一巻)』、あるいは基本ルールブックの 「第Ⅹ章 荘厳なるライクランド」と同じです。

しかしながら、その規模が違う。まさにエンパイアの帝冠、オールド・ワールド最大の人口を誇る大都市、神君シグマーに祝福された都、洗練された文化の中心地、霧と悪臭と暴動の街アルトドルフ!

冗談はともかく、表紙を開いて最初の見開きページからして、今までとひと味違います。

冒頭の見開きではページを丸ごと使ったイラストに添えて、一方のページでその土地を持ち上げる文章が掲げられ、見開きの反対側で相反する冷徹な意見が述べられる、というのが基本ルールブックの頃から続くお約束でした。

基本ルールブックではどうだったか見てみましょう。一方のページでエンパイアがいかに強大な国であるか、国境を守る軍隊の士気がどれほど高いか、名君の政策が国を富ませており、農村部はいかに穏やかで、都市の暮らしがどれほど希望に満ちているかを書いています。

反対側のページでは、国境近くの砦は孤立無援で危険な状態にあり、貿易の主導権は他国に握られており、村落に暮らす人々は非常に排他的で、貧富の差が果てしなく広がる都市部は絶望的な状況である、と逆の意見が述べられます。

『Middenheim: City of the White Wolf』でも同じように、文化的で寛容な国際都市ミドンハイムを持ち上げる文章がまず掲げられ、対となる言い分が反対側のページに載っています。

『Altdorf: Crown of the Empire』で描かれるアルトドルフはどうでしょうか?

最初にアルトドルフで暮らす人の愚痴が示されます。曰く、混沌の荒れ地よりもむかつく場所である。この都市は国をむさぼっているのだ。悪臭と濃い霧が毎朝河から立ち上ってきており・・・、云々。

普段と逆に、非難が前で賞賛が後になっているのです。それでも、住民のお国自慢が前者、客観的な意見が後者という姿勢は不変のようです。
つまり、そういうことです。

最初の章はアルトドルフの歴史。エルフとドワーフの文明が頂点を極めていた先史時代、ウンベローゲン族が定住した古代史上の出来事、エンパイア建国後の数々の歴史上の大事件、そして数ページの年表となります。

アルトドルフの歴史はライクランドの歴史と密接に結びついておりますので、ルールブックなどで既に述べられた内容と重複している記述もございます。

年表を見てみましょう。以前の記事でも手前は述べておりましたが、過去の版に比べて第4版ではウォーハンマーの小説シリーズからの引用が多く登場しています。

年表の最近の部分だけでも、窓税暴動、ケーニヒスヴァルド家の断絶、霧の大暴動、といった、小説の内容と関わる事件が掲載されています。

次の章では、支配者層の紹介。年表の次に統治機構という構成も、これまでの追加資料集と同じです。

皇帝カール=フランツ・ホルスヴィッヒ=シュリスタイン陛下から始まり、そのご家族の紹介。挿絵には陛下と並んでルイトポルト皇子が描かれております。手前、皇子の姿が公式の資料に掲載されているのを初めて見ました、父君にそっくりですね。

後ろに控えている個性的な髭の厳めしい人物こそ、皇帝筆頭剣士ルートヴィッヒ・シュワルツヘルムその人であります。

以降のページで示される廷臣の人数といい、その地位や役職の多様さといい、エンパイアの首都にふさわしいものでございました。人類の盟友であるエルフとドワーフも、アルトドルフの宮廷に大使を送り込んでおります。シグマー教の教義によって統一を維持しているエンパイアはドワーフ諸王国との外交を重視しており、アルトドルフのドワーフ長老のみならず、各山岳王国の大使が帝国の首都に滞在してございます。

アルトドルフに置かれた三つの議会の紹介があり、それぞれライクランド州議会、ライクランド参事会、アルトドルフ市議会となります。ライクランド参事会につきましては、既に基本ルールブック「Ⅹ章 荘厳なるライクランド」で紹介済みですね。

この章に載っているとりわけ重要なNPCは何人も、それはもう沢山掲載されているのですが、一人だけ挙げるなら何といってもやはりサイラス・ゴルマン師。帝立魔法大学校を束ねる最高主席魔術師であり、つまりエンパイア最強の魔法の使い手だということになります。

来歴とNPCとしてのデータが載っているだけでなく、携えている数々の魔法アイテムもデータ化されています。最高主席魔術師の象徴である「ヴォランスの杖」のみならず、「火焔の杖」「輝きの剣」など幾つもの強力な魔法アイテムで武装しています。

アナタの冒険シナリオでこれらのアイテムを使ってみたいですか?丁寧に断りを入れて一時的に借りるのはいいですが、無断で持ち出すのはいけません。もし無断で持ち出す者がいたら、「探し出して即刻火刑にする為に全力を傾ける」と書いてあります。帝国最強の魔術師が「全力を傾ける」のです。手前はそういう目に遭うのは御免被ります。

他にも、「ベルベットビースト」で民衆からの憎まれ役となり、「ユニコーンの角」では悪役を担った、帝国財務省長官モルナン・ティバルトに1ページを割いています。イラストもこれがまた何とも陰険そうな、いかにも悪人面ですね。意外というかあまり意外でも無いというか、後々彼の足下を危うくする秘密も書かれています。

遙か東にある大帝国の首都、江京からアルトドルフに赴任したキャセイ大使にも同じく1ページ。前任者に負けず劣らずの謎めいた人物のようです。

Ⅲ章からいよいよアルトドルフの街

都市の入り口から話が始まります。街道旅のガイドブック『Enemy in Shadows COMPANION』では関所の管理人である街道巡視隊員、ミドンハイムのガイドブックでは市門の警備兵、その土地を訪れたときに最初に出会う人々がエリアガイドの章の最初に例示されます。アルトドルフの街を訪れたときに最初に出会う人たちはどのような方々でしょうか?

波止場ギャング「魚団」「鉤団」の構成員と幹部。あー、そうっすね。アルトドルフに入港すると、最初に会うのはこの人たちだわ。何か『マッド・マックス』に出てきても違和感が無さそうな人たちですね。

ウォーハンマーの小説「ベルベットビースト」で名前が挙がっていた鉤団のボス、ウィリー・ピックのNPCデータも載っています。

霧と悪臭と暴動の街アルトドルフ、「霧と悪臭表」が本書8ページに載っていることは既にお話ししましたので、残るは暴動。先年発生いたしました霧の大暴動事件で瓦解した革命団体は複数の派閥に分裂しており、それぞれ異なる動機と目標で活動を続けている模様です。

ギャングと暴徒を紹介するコーナーに、貴族のどら息子が集まるカール=フランツ盟友会も掲載されています。各々の団体が皆バラバラに活動しているため、それらを束ねて帝国を覆そうとする混沌教団の陰謀はなかなか進んでいないようですね。

Ⅳ章はアルトドルフでの生活に関する記事が続きます。

祝日と娯楽。アルトドルフの主な祝日の解説があり、日常の娯楽を紹介しています。娯楽の種類につきましては、その日何をして過ごしたかを決める表がございます。
真鍮級向けには「日々の憂さ晴らし表」、白銀級に「余暇の過ごし方表」、そして黄金級の「有り余る時間と富を如何にして楽しむか表」となっており、NPCの行動をランダムに決めたり、アナタのPCが余暇をどのように過ごしているか(あるいは日々の憂さをどう晴らしているか)を描写するのにお役立ちのコーナーであります。

宿屋と下宿。アナタのご住所がアルトドルフであったり、ご親戚が在住というならともかく、そうでないなら住む場所も必要でしょう。アルトドルフ最高のホテル「グランド・インペリアル」から最低の木賃宿まで、宿泊施設の典型例と価格帯、そこに滞在するとどのようなことが起こるかの例が示されています。

橋。アルトドルフは橋の街であります。エンパイア全土を流れる二つの大河の合流地であり、両方の大河に架橋できる唯一の都市なのです。

他の都市であれば、主要な橋が一本あれば名所として都市ガイドに載ることでしょう。アルトドルフはどうか?蒸気駆動の跳ね橋や、魔法大学校によって架けられた魔法の橋、歴史ある複数の橋がこの章に掲載されております。

Ⅴ~Ⅶ章がアルトドルフ市街各地区の紹介
街の区画を南岸、東岸、北部に分けてそれぞれ章を設けています。

政治と文化の中心となる南岸地区には貴族の邸宅や文化施設が立ち並び、もちろん帝国宮殿とシグマー教大神殿もこの地区に建てられています。

イースト・エンドと呼ばれる東岸は港湾労働者と商店が集まる経済の中心区域。場所によっては治安が行き届いておらず、不穏な噂が囁かれる場所でもあります。一方で中央市場やドワーフが多く暮らす鍛冶屋街などアルトドルフに不可欠な地区でもあり、高名な帝立技術者大学校もこの地区に位置します。

ドワーフの鍛冶屋街については、後の章で別に項目を設けているので、そちらも目を通して下さいませ。

北岸は学生街、エンパイア最高学府の一つアルトドルフ大学や、ウルリ・フォン・タッセニンク宗教学校の所在地です。魔力を見る力を持たない者はその場所さえ知ることができませんが、帝立魔法大学校もこの地区にあります。

地区の解説は3つだけですかと肩を落としているそこのアナタ!もう一度見て下さい、「章が」3つなのです。各地区の内容はさらに細かいセクションに分かれており、Ⅴ章南岸地区には16のセクション、Ⅵ章東岸地区には7つのセクション、Ⅶ章北部地区には10のセクションが設けられております。

各セクションごとに(章ごとにではなく!)多ければ10もの名所紹介があり、これだけでもいくつもの冒険の舞台が作れます。膨大なシナリオフックがこの本には納められているのです。

シティガイドは145ページにも及びます。どれほどの規模かと申しますと、『Middenheim: City of the White Wolf』におけるミドンハイムのシティガイドが75ページですから大体倍くらいですね。あるいは『Enemy in Shadows COMPANION』の全ページ合わせても128ページですから、まあとにかく大変なページ数です。

本書には数々の名所旧跡に名店、シナリオフックがふんだんに盛り込まれております。

「吸血鬼戦争ふたたび」でジュヌヴィエーヴが暴徒に襲撃されたケーニヒス広場、この場所にある歴代皇帝像を巡るシティ・アドベンチャーを繰り広げたいそこのアナタ!ピッタリのシナリオフックが掲載されています。

「ウォーホーク」事件の際にダーティ・ハラルドが大立ち回りを演じた百件酒場通りを飲み歩きしたい飲兵衛のアナタにはうってつけの、「百件酒場の梯子酒」リストもあります。常連客の客層も判ります。警備隊行きつけの<青角灯>、吸血鬼が潜んでいると噂される<三日月亭>、荒くれ者が集う<不機嫌な騎士>、様々な酒場が並んでいます。

他にも幾多の冒険があなたを待っています。旧波止場の怪談の正体を突き止める冒険も良し、イェーガー侯にばったり出会って幸運を授けてもらうのも良いでしょう。ベーゲンハーフェンの波止場ギャング黒鱒団のアルトドルフでの活動を調査することもあるかもしれません。

NPCも大勢載っています。波止場警備隊長ハラルド・クラインダインスト、心霊捜査官ロザンナ・オフュールス、帝国大元帥クルト・ヘルボルグ、過去のウォーハンマー関連作で登場した有名人がデータ化されております。あるいは、アルトドルフ随一の怪盗、蒸気駆動の義手を装着した海軍士官、犯罪王兼魔女、アルトドルフ大学学長。このように、地位も役割も階級も多様なキャラクターが載っています。

データ化されているということは…、お察しの通りマグニン投げナイフやオフュールス捜査官のサイコメトリーをルール的に再現することも出来るようになりました。

帝国大元帥の所持するソランド領のルーンファング、エンパイアでもっとも切れ味鋭い剣、第4版でのルール上のデータもこの度初めて明かされました。

残念な点として、帝立動物園や魔法大学校の内部詳細は掲載されていないことを挙げます。これらは今後発売される『Imperial Zoo(帝立動物園)』『Winds of Magic(魔力の風)』に期待ですね。

霧と悪臭の街と何度も申し上げておりますので、察した方もいらっしゃるかもしれません。アルトドルフは大都市でございまして、排水が問題となっているわけです。

ライク河タラベック河両大河の合流点に街が築かれておりますので、街の大部分は軟らかい土の層の上に乗っております。強固な岩盤は宮殿の土台部分など限定された場所に限られており、地下トンネルを掘るのが難しい土地なのです。

そうです、アルトドルフはスケイブンが拠点を築くのに向かない都市なのです。

駐屯軍司令バールックス指揮下の地下陣地の規模は、地上の都市に比較すると小規模なものに留まる模様です。

次の章で少し目を城壁の外に移してみますと、牢獄として使われているマンドセン城塞や、ブルシュテリン教授の墓、帝立技術大学校の射撃練習場など、これまでのウォーハンマー関連小説で登場した場所がいくつか示されていました。

都市の城壁の内側に潜む危険についても語る章があります。
革命団体やギャング団をもうⅣ章で取り上げてしまっていますが心配はご無用、第Ⅹ章ではアルトドルフ社会で暗躍する数々のスパイ組織が紹介されています。

帝国の情報機関は有力な組織ですが、皇帝は別に直属のスパイも召し抱えています。ミドンハイムのトッドブリンガー家だけでなくエンパイアの各地の貴族が諜報員をアルトドルフに送り込んでおり、灰色の学府やシグマー教団の隠密修道会も活動しています。ブレトニアの無貌団、キスレヴのチェキスト、マリエンブルグ、ウルサーン、ドワーフの山岳王国、果てはナーガロスに至るまで世界各国のスパイが集結しているのです。

混沌教団だって負けていません、これまでの追加資料で紹介された数々の混沌教団のアルトドルフにおける活動状況、そして新たな混沌教団の紹介が第ⅩⅠ章に掲載されています。混沌ではないものの活動が禁止されている組織も掲載。

付録のページは、アルトドルフでの冒険外活動についての追加ルールとなります。
基本ルールでも紹介されている冒険活動の拡張ルールもあれば、新しく追加された判定もあります。
魔法アイテムの鑑定方法、シグマーの聖地に詣でて「原罪点」を下げるための巡礼ルール、デトレフ・ジールックのような才能ある劇作家に投資するための冒険外活動、といったものです。

さて、アルトドルフ観光はいかがだったでしょうか。
ケイブンの脅威が思っていたほどではなかったので、『Horned Rat(角在りし鼠)』でケイブンが強化されるまでの間は、少し安心できそうです。