無駄口を叩いて渡る世間に鬼瓦

映画について、深読みしたり邪推したり。時折、映画以外の話をすることもあります。

「ジョン・ウィック」高レベル亜侠の冒険

物語の要旨 かっこいいサタスペ
ジャンル セガール系アクション

上記のキーワードを見て脳の奥底にあるニューロンが発火したそこのTRPG者のアナタ!「アジアンパンクRPG サタスペ」で自分のキャラクターを動かす際にどうしたら格好良く演出できるか迷っているそこのアナタ!今すぐこの映画を観るべきです。

何の話かさっぱり解らない人が大半だと思いますので、簡単にご説明致しましょう。「ダンジョンズ&ドラゴンズ」に源流を持つゲームの一ジャンルとして、TRPGというものがあるわけです。
キャラクターの能力を数値化したシートと筆記具そしてルールブックを用いてRPGを行う、ドラクエやらFFやらFSOやらのコンピュータRPGのご先祖に当たるゲームジャンルです。

ちょっと言い直しましょう、ご先祖 に当たるゲームジャンルです。

で、そのゲームの一シリーズに「アジアンパンクRPG サタスペ」というのがあります。どのようなゲームか大雑把に説明しますと、プレイヤーは架空世界のオオサカを舞台として職業犯罪者のキャラクターを作成し、様々な冒険に挑むというゲームであります。このゲームのルールブックで再現できる物語を探すなら「ブラック・ラグーン」6巻の偽札事件や「ブルース・ブラザーズ」のようなドタバタから「魔界都市新宿」シリーズのようなオカルト伝奇ものまで幅広くございます。

ちなみに、ルールブックに噂話として美形の煎餅屋の存在に言及されていたり、イラストの一部を広江礼威が描いていたり、旧版ではサングラスにダークスーツ着用のデブとノッポの二人組がイラストに描かれていることから、イメージソースとして魔界都市ブラック・ラグーンブルース・ブラザーズがあるのは明らかです。

このゲームでモンスターとして設定されているのが、吐きだめの悪魔、殺人トマト、フェムボット、トラック野郎、ドラゴン(西洋の伝承に登場する蜥蜴型ではなく人間型でヌンチャクを振り回しジーグンドーで攻撃してくる方のドラゴン)という個性的でどこかコミカルな、一部の映画ファンにはグッとくるキャラクターの数々です。少なくとも、エルヴィス・プレスリービリケンさん、太陽の塔がモンスターとして設定されているゲームは他に無いと思います。

しかし、設定上ジョークや風刺などコメディ要素が強いためシリアスなキャラクターを作ると浮いてしまう。そういった理由で躊躇しているソコのTRPG者のアナタ!今すぐ「ジョン・ウィック」を観て下さい。格好良い「サタスペ」がココにある!のです。

見れば見るほど「サタスペ」っぽいんです、この映画。キアヌ・リーブス演じる主人公、伝説の殺し屋ジョン・ウィックが引退からカムバックした動機は「サタスペ」基本ルールブック201ページの表でサイコロを振った結果“恋人が死んだ”の目を出してしまったのだろうなあ、とか“走り屋”の異能を持っていそうだ、とか追加ルールブックの“ガンフー”は取得しているのだろうとかそんな感じですごく「サタスペ」っぽいのです。

何より、最新の追加ルールブック「鉄火場と鉄砲玉」で新たに加わった殺し屋の異能・・・えーと、一般的なゲームで言うジョブスキルとか、クラスアビリティのようなものと思って下さい、キャラクターの能力値に応じて情報収集やアイテム獲得にボーナスが得られる新スキル“殺し屋ランキング”をゲーム上演出するにはどうするか?のモデルケースのような展開が示されているわけですよ。

そういうわけで、「サタスペ」のプレイヤーはこの映画を観るべし!

まさかTRPGにご興味をお持ちでない方が文章の後半まで読んでいるとは思えませんが、TRPGとは直接の関係がない話題を続けます。

この映画のジャンルはセガール系アクションであります。ただし、スティーブン・セガールは出演していません。

ではどういうことかと申しますに、昔から世の中には以下の如き映画ジャンルがあったのでございます。悪徳地主がゴロツキを雇って開拓村を襲わせたら村の牧師がイーストウッドだったとか、三下が漁村に嫌がらせをしていたら高倉健が漁師をしていたとか、牛丼屋に強盗に入ったら厨房からセガールが出てきたとか、そういったジャンルです。

要するに、調子に乗っているザコがちょっかいかけた相手がセガールイーストウッドでも高倉健でもゴジラでも可)という映画。「ジョン・ウィック」はこういったセガール系の映画なのです。

さらに、この映画のセールスポイントとして、銃器を使った新たな新たな格闘アクション“ガンフー”なるものが見所に挙げられています。そのテの映画を浴びるように観てきた数寄者の皆様方なら、この名前を聞いて別の何かを思い出したことでしょう。そう、クリスチャン・ベール主演の「リベリオン」に登場した架空の格闘技“ガン=カタ”です。

ちなみに手前は「リベリオン」を試写会で観て、その後三回映画館で観ました。もちろんDVDも持っています。

話が逸れ申した、“ガン=カタ”は一つの発明でございました。仮に、純真なハートを持つお子様が「コマンドー」をご覧になっているとしましょう。そこでアナタに向かって深遠な質問を投げかけるわけです。“何でシュワルツネッガーに弾が当たらないの?”そう聞かれた場合、皆様は何とお答えになるでしょうか?まさか“主役には弾が当たらないんだよ”と優しく諭すわけにもいきますまい。

ガン=カタはそのご都合主義に一つの解決策をもたらしました。“主人公は銃弾を最も回避し易い位置に立ち、かつ反撃に最適なポジションを確保するためのノウハウを武術として修得しているのだッ!”という論理的(どこがやねん)な回答を。

そもそも、映画において主人公に敵の攻撃が当たらないようにするには、主人公補正以外にもう一つの何かが必要になります。

一つはスター性。シュワルツネッガーに敵の銃弾が当たらないのも、ジャッキー・チェンがどんな高さから落ちても平気なのも、スターとしての存在感によるものです。物語上の物理法則をねじ曲げてしまっても、まあこの人なら仕方がないかと納得させてしまう存在感さえあれば、銃弾など恐れるに足りません。

あるいは特撮/CG/SFX。丁度キアヌ・リーブスが主演した大ヒット映画「マトリックス」でそうだったように、たとえCGだったとしても、観客の目の前で銃弾を避ける場面を具体的に見せてしまえば“ああ、この人はこの話の中では弾を避けられるんだ”と納得せざるを得なくなります。

そして三つ目の要素、セガール拳です。この名称が適切かどうかはともかく(多分適切ではないのでしょうが)“こういう動きが出来る人なら、敵の弾が当たらなくても仕方がない”と観客に納得させてしまうような身体操法が有れば、例え物語上の物理法則をねじ曲げるほどのスター性が無くてもCGや特撮を使わなくても主人公が無敵であることを保証出来るわけです。

さて、キアヌ・リーブス氏はスターであります。従って、単独で物語の物理法則を曲げるだけの説得力があるわけです。加えて、「マトリックス」の主演でもあるわけですから、さらに物語の物理法則を曲げるだけの説得力が強まります。加えてガンフーなる説得力満点の武術の使い手という設定まで付いてきている。これはもう、説得力×説得力×説得力で説得力の三乗になります。

という馬鹿話はともかく、「ジョン・ウィック」で描かれた創作格闘技の“ガンフー”、動作としてはカンフーではありませんでした。では身体操法として何が最も近かったのかと言えば、それはやっぱりセガール拳。

武器を振り下ろす相手の利き腕を掴み、相手の勢いを利用して関節をへし折り、あるいは膝を横から蹴って普通は曲がらない方向に足を折りたたみ、動けなくなったところで正中線上に銃弾を叩き込むという、効率よく相手を始末していくブルータルで殺る気満々の技の数々。これぞまさしくセガール拳の神髄。

というわけで、サタスペのシナリオアイデアを探している皆様方と、セガール系アクションをたいそうお好みのそこのアナタはこの映画を是非観るべし。